マドレーヌ13歳、晩秋。~コメルシー邸のトラウマ~
「では。お嬢様、お話をお聞かせくださいますね?」
団欒室にて。
最も長く仕えている侍女頭のマーサと料理人のソーヤー、家令のウーブリーなど、主要な使用人が雁首揃えてマドレーヌに詰め寄った。その後ろには従者やメイドら手の空いた使用人が控え、固唾を飲んで事態を見守っている。
団欒室はコメルシー男爵家特有の部屋で、使用人も主人も皆が一緒に寛ぐために設けられたものだが、今は団欒の「だ」の字もない。
「お話と言っても、そのままよ?わたしとダル義兄さまがよく似てるって」
「はい。それが、どのような状況下で、職員の方がお嬢様に仰られたのか、我々はじっくりお聞きしたいのです」
使用人達を恐慌に陥れた本人はといえば、彼らのただならぬ様子を訝しみながらも、さっぱり理由が思い当たらないだけに困惑しかない。マドレーヌのせいではないし、事情を知るはずもないのだから当然といえば当然だ。
「よくわからないけれど、そうね。文化祭相談役になったことからお話するわ」
*****
「ふうん?犬も飼い主に似ると言うし、一緒に暮らすとどこかしら似てくるんだろうな」
「…おまえなぁ」
残業を終えて夜遅くに帰宅した元凶に着替えを渡しながら、ケルノンは盛大に溜息を吐いた。
過剰とも言える使用人一同の反応の原因は、元を正せばダルドワーズにある。
14年前、ど田舎から都会にやって来た野生児は、入学初日に王国軍騎士の息子を一撃ではっ倒して校舎に入ることもなく退学危機に陥る。それ以来、月に1〜2回はどこかで騒動を巻き起こし、極め付けが教師の解職請求だ。
タチが悪いことに、或いは家にとっては幸いにも、ダルドワーズの行動はどれもこれも相手に非のあるもので、例えば最初の騎士子息は肩が触れたとかで気弱な男子学院生を脅していたし、結果罷免された教師は不正を働いていた。
そんなわけで叱ることも褒めることもできず、王立学院もすっかり持て余して両親を呼び出しては長めの面談を度々行い、使用人達も胃をキリキリ痛めて眠れぬ夜を過ごしたものだ。
「お嬢様は文化祭の相談役を仰せつかり、また、”職業婦人の集い“も提言されたそうだ。問題児のお前やペットと一緒にするな」
「職業婦人の集い?」
マーサとウーブリーの根気強い聴取によってマドレーヌの学院での言動は凡そ把握できた。意図せず女性職員を団結奮起させてしまったあたりをダルドワーズに重ねてしまったのだろう、という結論に至り使用人の精神の安定は守られた。
「女性が外で働くにあたっての苦労だのを直に話を聞く機会があれば、職業婦人を志す学院生の助けになると。“ジョシカイ”というらしい、女性のみの集会なんだそうだ」
「茶会とは違うのか?」
「茶会は社交だからな。もっと気兼ねなく、本音で語る会だってさ」
「あー、男は酒の席があるもんな。そこで羽目を外しても多少の小言で済むが、茶会じゃあそんなわけにもいかないか」
「お前の場合は外しすぎだ」
学院を卒業してほっとしたのも束の間、軍に入団するなり同じ人種の男と組んで大騒ぎ。あちこち辺境地に出向させられて漸く家内は静かになった。
「にしても。マディのやつ、よくも色々とアイデアが湧いてくるもんだな」
「ああ。お嬢様の才は本物だ。新作も一つ、実現性の高いものを上げられたよ。お前達の役にも立つ筈だ」
ケルノンはイラストを描いた紙を1枚、ダルドワーズにひらりと手渡した。




