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マドレーヌ13歳、晩秋。~激震~

「ケルノンさん、いまお手隙ですか?」


 厨房での手伝いを終えて廊下に出てきた従者は主家の娘の声に足を止め、腰を落とした。


「はい、お嬢様。何なりとお申し付けください」


「ありがとう。また描いてほしいものができたんです」


 ケルノンはダルドワーズの幼馴染み兼従者である。けれどこの半年余りはマドレーヌにアイデアが浮かんだときのイラスト係としても使役されている。例の文化祭の提言のイラストもケルノンの手によるものだ。


「畏まりました。描き上がりましたら旦那様にご報告なさいますか?」


「そうしたいけれど、お養父様はお忙しくありませんか?」


「今日は書類整理だけど伺っております」


「では、少しだけ時間を頂戴したいとお伝えしてください」


「畏まりました」


 コメルシー男爵の授爵により、田舎のガキ大将から貴族家ご嫡男になったダルドワーズの従者となって早15年。大抵のことは卒なく熟して信頼されているし、それに見合う働きや振る舞いもしているという自負がある。その証左に、侍女頭マーサの不在時には護衛も兼ねてマドレーヌに付き添う役も任された。


「そうだ。ケルノンさん、今日は学院で嬉しいことがあったんです」


「嬉しいこと、ですか」


 村のご近所さんから主家に迎えられた少女は、いつも声を弾ませて他愛のない日常を聞かせてくれる。我々使用人は家族ではないのだから、と窘めるべきなのだろうが、軽妙な語り口や着眼点の面白さ、何よりもそのキラキラと輝く表情をみれば止めろとも言えず結局そのまま。これはケルノンだけでなく、この屋敷にいる使用人の総意である。なんだかんだで皆、この風変わりな少女との会話が楽しくて耳を傾けている。今だってそうだ。


「学院の職員さんがね、『コメルシーさんはお兄さんによく似ていますね』ですって!」


 にこにこ顔で発言を待っていたメイドがヒィっと短い悲鳴を上げて花瓶を倒し、調理場からは何かひっくり返したのだろう、金属音が木霊した。大惨事はこの2件くらいだが、他でも細々とした粗相が多発している。


「お、お嬢様…」


 出来た従者も腰を抜かして床にべったり座り込み、そちこちで同時多発した事件に目を丸くするマドレーヌを見上げる。


「誰か!誰か至急マーサさんかウーブリーさんを!」

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