マドレーヌ13歳、晩秋。~よろづ相談承ります?〜
「あのぉ、文化祭の出展品のことでご相談があるのですけれど」
「はい、どうぞ。コメルシーさん、次はこっちの方をお願いしますね」
「すいません。ここに来れば文化祭の相談に乗ってくれるって聞いたんですけど」
「少々お待ちください。コメルシーさん、その次はこちらの方をお願いします」
教務課の片隅で、マドレーヌは顔を引き攣らせた。
――どうしてこうなった?
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「わたしが運営委員会に立候補したって言ったら、みんなが…」
「わたくしの方も、ほとんど同じ流れで…」
その日、登校するなりマドレーヌは人の壁で行く手を阻まれた。その先頭にはミラベルとコモリがゴメンと手を合わせている。
「ちょっと相談に乗ってくれないかな?」
「帰る前にお時間頂戴したいの」
そんなわけでランチ後、いつもの食堂の片隅で相談会が急きょ開催された。2人があちこちで吹聴したらしく、集まった悩める学院生は30名弱。その中にはモニカとジョンも勿論居るけれど、彼女たちはサポート役として名乗りを挙げてくれたのだった。
「何をして良いかわからない?でしたらご自身やご領地のお得意とされる分野からお考えになっては?」
「同じ授業を受けていらっしゃる方と連名で出展されてはいかがでしょう?」
次々と適当なアドバイスをしてお帰りいただく、簡単なお仕事です。…とはいかず。
「ええと、ご相談とは?ああ、輸送コストの問題ですか。なるほど石材の有名なお土地ですものね」
たまにガチな相談もある。
男子学院生から家名を聞き、頭の中で展開した地図で位置を確認し、主要産物を思い出していく。お茶会での話題作りのための地理学習が思いがけない場面で役立った。
「石材の切り出しは重労働ですよね。へえ、やはり皆さま精悍な方ばかりなんですね。じゃあケンカなんかも?あー、それは痛そう。仲直りの手段はお酒ですかぁ。豪快ですね」
学院から出展者に出される予算は決められており、それ以外は自分で工夫して捻出しなくてはならない。見映えのする量の石材を王都まで運ぶなら輸送費だけでも莫大になる。似たような石を購入することもできるけれど、できれば自領の資材を使って披露したい思いは理解できる。
世間話のようなノリで色々と聞き出しながら脳内で他の資料を次々とめくっていく。
「ジョン様のお家ってこちらの領地のお近くまで航路を開かれていますよね?こちらの石材をバラストとして積んでいただく交渉の余地はありそうですか?お聞きしたところ、この品目を複数組み合わせれば充分に採算が見合うと思うのです。ざっくりとした試算ですが」
「ばらすと?」
「船を安定させるために船底に積む重石です。船の通行にはご領主の許可が必要でしょうから同じものを2通作りますね。後は大人同士の話し合いになっちゃいますが、可能性はあります」
話しながらペンを走らせ、陸路と水路での輸送コストの差や石材を積む地で売れそうな品物を書き出していく。出来上がった書類もどきを2人に渡し、内容に問題は無いか確認すれば業務終了だ。
「あー、なんとか帰りの馬車までに終わってよかったぁ」
淑女らしからぬ大きく伸びをして帰った次の日、文化祭関連の情報を知らせる特設掲示板にデカデカと新しい貼り紙がされていた。騒めく声と視線を存分に浴びながら、マドレーヌは心の中で大いに叫んだ。だってそれは、そこには、たった一文だけれど、マドレーヌの日常をすっかり変えてしまいそうな言葉があったのだから。
『マドレーヌ・コメルシーを王立学院文化祭に於ける相談役に任命する』




