マドレーヌ13歳、晩秋。~職業婦人への第一歩?~
「狭いけれど楽にしてくれ」
圧倒的な身分差を感じさせる乗り心地の良い馬車に揺られ、着いたのは煌びやかな宮殿内の一室。贅を尽くした応接室――の扉の奥の部屋だった。
主人のものらしき重厚な机を正面の最奥に、左右に分かれて向かい合わせに置かれた5つの机では1つの空席を除いて秘書官らしい人々が勤勉に仕事をしている。
要するに、いかにも機密文書が置かれていそうな執務室、である。
「…部外者の未成年者が居て良い場所ではないと思うのですが」
勧められるまま扉のすぐ側にあるミーティング用らしき席につけば、応接室にいた秘書官がすぐさま紅茶を出してくれた。残る1席はこの彼女のものだろう。
「どうせ大半は無意味な書状だから。これなんて特にね」
「何か言っているようで結局のところ何も言っていない中身ゼロの主張をここまで長々と書き記せるのも一種の才能ですね」
「おー、言うねえ」
渡された書類は読もうにも目がツルツル滑る有り様で、これを読ませられる方は堪ったもんじゃない。苛立ち任せに上辺だけは取り繕って思ったまま感想を述べれば、デライト伯爵は楽しそうだし誰かから笑い声も漏れた。
「本題に戻ろう。このように陳情書を読み解くだけでもこの人数が必要でね、とても王立学院の方に手が回らない。だから君に任せたい。具体的には書類の仕分けと取りまとめかな」
「仕分けですか。犯罪、強要、賄賂の要求、上乗せ請求…は会計監査で追々ですよね」
「話が早くて助かるな」
学園祭(仮)は飽くまでビギナーコースの学院生が運営するイベントだ。そこにデライト伯爵の出番があるとしたら、それに乗じて発生し得る不正行為の防止や対応だろう。マドレーヌに求められる役割は提出書類から不正を告発する係といったところか。
「金銭や個人情報を扱わないのであれば、わたしに異論はありません。けれど未成年者ですので、この場でのお返事はできかねます。養父の決定に従いますことをお許しください。契約内容についても同様に」
「無論。私としては共に働くのが楽しみで仕方ないが、父君にも強要はしないと約束する」
「過分なご配慮に感謝申し上げます」
パワハラ疑惑、撤回。
こちらを一向だにせず無言で大量な書類を捌く秘書官たちの様子は少しばかり気にかかるけれど、宮廷文官も進路の一つに考えても良いかもしれない。
「もう父君の元に契約書が届いている頃だ。家まで送らせるから、じっくり話し合ってくれたまえ」
……うん、パワハラではない。ただ、根回し手回しが良すぎるだけなのだ。




