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マドレーヌ13歳、晩秋。~そして物語は動き始める~

デライト侯爵家(うち)は勿論として、キエフルシ公爵家、文化大臣のラミントン伯爵家、軍長官のマロウ侯爵家…」


 指折り挙げられる錚々たる面々にマドレーヌはこのまま意識が遠のくのを願った。


 *****


 穏やかな日だった。“明日の放課後、学院長室に来るように”との書き付けを渡されていたマドレーヌが重い足取りで行ってみると、果たしてナウル・デライト伯爵もそこにいた。


「やあ。例の件、承認されたよ」


 の言葉付きで。


 聞けば、予算は即座に承認されたが、どこから聞き付けたか支援に名乗りを挙げた家が多すぎて折り合いをつけるのに時間がかかったと笑う。現在までに名乗りを上げた家は文門、武門を問わず。マロウ侯爵などは第三部隊の隊員がボランティアで剣術指南を行なっていることを理由に、剣技披露の場を用意すると請け負ってくれたとか。ちなみに彼の妻はギモーヴ夫人だそうだ。なにそれ聞いてない。


「それほど大勢の方にご支援を賜り、ありがたい事でございます。それもこれもデライト伯爵がお骨折りくださったお陰と存じます。なんと申し上げて良いか、お礼の言葉もございません」


 平日は算術の先生に図書館での王国語の補習やお茶会用の下調べ、休日はサロンにお手紙の返信などなど、忙しさに感けてすっかり記憶の隅に追いやっていた。それが思いの外、大規模になりそうな気配をひしひし感じて身震いするが、なんとか言葉を絞り出す。ご令嬢に相応しい言葉遣いは苦手だが、ビジネス敬語は得意なのだ。


「王立学院の革新的な取り組みに支援することで王家へのアピールにもなるからね。私が何かしたというより、彼らにとっても利のあることと踏んだまでさ」


 マドレーヌの返答は及第点を貰えたようだ。デライト伯爵の顔が柔らかくなる。

 思えば、出会いこそあまり良くはなかったが、学園祭の草案も女子供の戯れ言として一笑に付すのではなく実現可能性のある企画として見てくれたし、横の繋がりもあれば権力もあるのに傲慢ではない。上司として理想的なのではないだろうか?


「何か?」


「失礼しました。デライト伯爵の下で働ける方はとてもお幸せだと思いまして」


「ほう。どんなところでそう感じたかを聞いても?」


「ほぼ決定稿で後は公式発表を待つだけだった企画がスポンサーの圧と思いつきによって土壇場でひっくり返るような事態にはさせませんでしょう?」


 遠い遠い記憶の中の()()が過り、恨み言が思わず口をついて出た。あれは本当に酷かった。何が酷いって、それが一度や二度ではないところだ。しかも大抵、納期はそのままというオマケ付き。


「たしかに。それはしないと約束できる。……君も苦労しているね」


「いえ…過去のことですので」


 生まれる前に遡るほどには昔のことだ。今生でしんみりしても仕方ない。出された紅茶で喉を湿らせ、気を取り直す。


「さて。これからのことだけれど?」


「当初の計画通り、学院長の名の下で運営委員会を立ち上げ、メンバーを広く募ろうと思います。実務から広報、営業など、各人の得手とする分野で、無理のない範囲で協力いただこうかと」


「良い考えだが、発案者である君がトップに立つ考えはないのかい?」


「発表内容は多岐に亘り、社交にも王都にも不慣れなわたしでは対処しきれるものではありません。名だたる皆様にご支援賜る以上、不甲斐ない成果は出せませんので、計画をすべて知っているわたしは裏方でサポートに回った方が宜しいかと思います」


 目立ちたくない。を、やんわり伝える。誇り高い生粋の貴族に目を付けられたら厄介だ。


「うん、いいね。

 学院長、さっそく明日にでもこの旨を掲示して希望者を募ろう。能力の低い者が名声欲しさに上に立つことは避けねばな。運営委員の募集期間は二週間。その後、1月以内にそれらを取りまとめて素行や成績の表とともに私に提出していただいても?ああ、彼女の分は不要だ」


 明確な指示の下、学院長もその秘書らしき人々も即座に動き出す。各人がすべき仕事内容もわかりやすいしスケジュールも無理がないよう配慮する、実に素晴らしい。

 じんわり感動するマドレーヌに、デライト伯爵はにっこり笑いかける。


「では、君を本企画に於いてのみ私の部下としよう。簡易だが任命書を渡すから、これから宮廷に行くよ」


 そうだ。まだこれが残っていた。このナウル・デライト伯爵――パワハラだ。

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