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マドレーヌ14歳、晩夏。~中庭ランチ〜

「ルゥくんを自分の息の掛かった家に出して、そちらを全力で支援しますね。わたしなら」


 そう答えると、ナウルは目を瞑ってゆっくり空を仰いだ。


 *****


 直属の上司であるナウルからの面会要請にフルン共々応じた中庭でのランチタイム。食事は毎日持参しているのでと伝えたが気を利かせてくれたらしく、テーブルとお茶とお茶を淹れる使用人がセッティングされており、更には義兄も招かれていた。こうなればアウェイから一転、ここはホームである。恐らくは美しく着飾った男女による上品な語らいの場となるのであろう中庭も、大きなバスケットを広げてそれぞれ好みのブリトーを手掴みでもぐもぐしている今は自然あふれる“死の森”でのピクニックさながら。王宮内とは思われない無礼講が罷り通っている。

 そんな折に、


「もしも、君がキエフルシ公爵家令嬢であり、今なお両親に虐げられて居たならば、王子妃ないし婚約者となった時にどのような処罰を与えるか」


 そんなことをナウルから問われたのだった。

 前キエフルシ公爵は前デライト侯爵と違って表向き目立った瑕疵はなく、寧ろ人格者として有名だったらしい。そんな人間を処刑すれば()()だし、無理矢理に隠居させたところで実権や有用な人脈を握っていれば無意味。だったら権力を引き剥がして仲の良い“未来のキエフルシ公爵”にすべてを移譲すべく動いたほうがよっぽど自分の為になる。

 何も言わずとも、王子妃であり未来の王妃が可愛がっている甥を他の家で養育させ支援している、そんなあからさまな態度を見せればいかなキエフルシ公爵家とて人心は離れてゆくだろう。そうして、頃合いを見てルリジューズをキエフルシ家に戻した頃には公爵家にとって、また、王家の一員たる己にとっても必要不可欠な権力はすべてルリジューズが握っている、という絡繰りだ。


「公の場で断罪、などは考えないか?」


「非力な頃なら大勢を前に御涙頂戴もアリでしょうけど、権力者がそれやっちゃあ資質を問われてお終いです。舞台なんかじゃ白黒つけた方が観客は盛り上がりますけど、現実はギリギリ納得できるグレーに着地させるのが上に立つ人間の仕事じゃないですか」


「つくづく、君や君の家族との敵対を避けた判断は私の生涯最大の功績だ」


 王家の使用人が淹れた紅茶をゆっくり喉に流し込むナウルはまだ遠くを見つめていて、空に浮かぶ白い雲を眺めているようにも見える。実に詩人っぽい雰囲気だ。


「さすが、初恋の君」


「なッ?!」

「えッ?!」

「はッ?!」


 何の気なしに思わず呟いた一言だったが男3人誰も聞き流さず勢いよく此方に向き直る。巻き起こった風に前髪が揺れた。


「は、はつ、はつこいと言ったか?今」


 目を見開き血走らせ、吃りながらも語気強く迫るダルドワーズの顔には脂汗が滲む。その後ろではフルンがナウルの方を見ているのは見えたが、ナウルの姿は確認出来ない。そうか、忘れていたがここ2人は護衛兼お目付役でもある。誤解をさっさと解かないと、早合点で父に報告でもされたらエライことだ。


「うん。室長の娘ちゃんね、お父様が理想の男性で初恋の相手なんだって」


「「「むすめ……」」」


 3人の脱力気味な声が揃ったのを聞けば、やはり誤解が生じていたようだ。仲良くなった娘ちゃんがこっそり教えてくれた心の内を勝手に暴露した形になったが背に腹は変えられないのだから仕方ない。


「そうか、そうか。そうか」


 一拍置いて事実がきちんと脳にまで伝わったナウルは、右手で口元を覆い隠してはいるが、目も頬も大いに笑んでいる。愛娘からの「パパ大好き」の破壊力はこの世界でも抜群だ。


「てことは、娘ちゃんの初恋は失恋確定かぁ。可哀想に」


「もう。そういう意地悪を言うものじゃないですよ?」


 ヘルギの八つ当たりという生命の危機から脱して安心したか、ごくたまに現れるフルンの悪癖がひょっこり顔を出す。ちょいちょい軽口を叩いては人をからかって遊ぶアレだ。


「ど、どどどど」


「落ち着いてくださーい。大丈夫ですからねー」


「まあ、大きくなって余所との交流も盛んになれば正真正銘の初恋もそのうちあるだろ」


「!!!」


「ダル義兄さまも不用意な発言はしないでくださーい」


 まだまだ幼い愛娘の初恋事情からポーンと軽やかに跳躍してまだ見ぬ男との結婚にまで想像が及んだらしく、パキッと硬直するナウルの姿に、年嵩の使用人が耐えきれなかったと見えて「ふっ」と息を漏らした。実に微笑ましい昼下がりである。


「息子に同意を取り付け婿を取る方法も…」


「室長がうちの家族みたいな事を言い出した」


「まあ、実際問題、マディはヘルギさんの危険性の他にスヴァさんの実家の関係もあるから嫁には行けないしな」


 家出?したとはいえ一人娘の一人娘。ミケーネの祖父母にとっては唯一の跡取りとなるのか。大家族のドのつく末っ子で何の気負いもなくのびのび育った身には荷が重すぎる。


「ああ、忘れるところだった。その件が今日の本題だったのだ」


「?」



「相手国とも話がついた。君と、君の父上を正式に公表する手筈が整ったぞ」



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