マドレーヌ13歳、晩秋。~おそろいは親友の証~
「ご機嫌麗しゅうございますコシチェ子爵夫人、本日はご招待いただきありがとうございます」
「よく来てくださったわ。3家族だけの気楽な席よ、楽になさって」
「マドレーヌ様、お越しいただきありがとうございます」
初めて訪れたコシチェ家の王都邸は赤いレンガと灰色の切り石を組み合わせた重厚な屋敷だった。初対面の挨拶はまずまず、上手くいったと思う。
案内された庭園では同じく呼ばれていたウォルト家と共に、母親組、子供組と分かれてテーブルに着く。気兼ねないお茶会とは聞いていたが、両夫人とも微笑ましく子供組を眺めては世間話に勤しむなど、実に和やかだ。
「実は今日、お二人にお渡ししたいものがあるんです」
そこまで言って、急に怖気付いた。
思えば、手作り品などを生粋の貴族令嬢たるモニカに贈って良いものか。ジョンだって都会人だから、洗練された品々に囲まれて育ったはずだ。色違いの試作品を渡した養両親や義兄には大いに喜ばれたけれど、あの3人は身内の欲目もあるし昔からマドレーヌに甘い。
「ええっと…以前、色の話をしましたでしょう?それで色々と考えてみたのです。そしたら、ええと、なんていうか」
珍しくモジモジと歯切れ悪く、照れた表情のマドレーヌを見つめる2人の目は優しい。ついでに邪な感情も見え隠れしているけれど。
「3人でお揃いにしたくって。受け取ってください」
開き直ってガバッと頭を下げ、2人の前に小さな包みを突き出す。中身はピンク、榛色、黄緑色の刺繍糸を編んだ長めのミサンガだ。腕に三重巻きできるくらいの長さに仕立ててあり、丈夫だからブレスレットにするほか書類を束ねたり何かしらで活用できるだろう。義兄は剣の飾り緒にすると言っていた。
「まあ!まあまあまあ!なんて…なんて、ああーッ!」
「ありがとうございますマドレーヌ様、美しい組紐ですね。あ、モニカ様と私と、3人の色で」
天を仰ぎ感涙咽び泣く寸前のモニカを視線の隅に追いやり、ジョンはすかさずフォローする。
「はい。お2人はわたしが王都に出てきて初めてのお友達で…。なので、皆んなで一緒に持てるものが欲しいなって。あの、ご迷惑でなければ、ですけど…」
おずおずと顔を上げ、ちらりと様子を窺うと2人とも心ここに在らずな様子だ。これはアレだ、体よくお断りされるヤツ――
「ありがとうございますマドレーヌ様!家宝に致します!」
「あ、いえ、その、使っていただきたいんですけれど…」
急に覚醒したモニカがマドレーヌの手をぎゅぎゅっと握って瞬きもせず見つめてきた。その熱量はマドレーヌが若干引くくらいには激熱である。
「せっかくだから俺は見せびらかしちゃおうかな」
「あ、故郷では手首などに巻いている人もいました」
前世の記憶を頼りに初めてミサンガを作ったのは随分と昔のことだ。麻紐が文字通り擦り切れるまで練習した甲斐もあって出来栄えもそこそこで、村人達にあげたらいたく感謝された。自分で染めた斑な麻紐だったことと、一つひとつ色柄模様を変えたから、手首や足首に巻いておけば万が一の時は身元確認になると笑っていた。現世では決してあり得ないことではないので笑えない。せめて出番のないことを祈るのみ。
「へえ、なるほど。こうですか?」
「はい。あ、結ぶのは片手だと難しいので、わたしがやりますね」
そっと体を近づけてジョンが腕に巻き付けたミサンガの端と端を器用に結ぶ。思わぬ役得にジョンはモニカが側にいることも忘れてほくそ笑んだ。




