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ダルドワーズ27歳、秋。~ナイショの話~

「鹿の角をくり抜いて作るの。けっこう便利なのよ」


「いつも思うが、うまいもんだなぁ」


 義妹となったマドレーヌがコメルシー家の庭の片隅にあった物置をいつのまにかコツコツ改装し、なし崩し的に占拠した”離れ“は小物から大物まで、多種多彩なもので溢れている。それでも混沌として見えないのは、慣れからくるものか、或いは義妹の整理整頓能力の高さゆえか。


「そっちは木で作った鳥寄せの笛よ。擦って音を出すの」


「へえ。いろいろあるんだな」


 2人がかりで()()()()おねだりされ、何の因果か公爵家のご子息(ルリジューズ)をおんぶする羽目になった安息日から数日が経った。その後届いた薬草の下準備が終わったと言われ、今日は例の『通じ薬』の調合をするという。

 ちなみにお坊ちゃんはさぞかし疲れていたのだろう。背中でぐっすり眠ってしまったのを幸いに、迷子を保護したと中央教会に匿名で届けて来た。そうして素知らぬ顔で両親と合流したってのがあの日の顛末だ。この話は兄妹だけの内緒である。


「あ。その瓶に入ってるのはあんまり触らない方がいいかも」


「マジか。触るだけでもヤバいものか?」


 分厚い瓶の中身はたっぷりの水に浸けられていた。淡い黄色のそれはとても柔らかそうで、蜜蝋のようにも見える。


「父さんから送られてきたんだけどね」


「ヘルギさんから…?!」


 思わず両手を上げて瓶から離れる。もはやこれは条件反射だ。

 義妹(マディ)の実父だけあって、ヘルギさんは顔の造作だけで言えばかなり良い。相当に良い。親父と違ってすらっと痩せ型で笑顔も絶やさないし物腰も柔らかいから、黙っていれば色男の部類に入るだろう。しかし天は二物を与えず、持ち前の狂…破天荒な言動でもって時に他者に恐怖と被害を与えている。その筆頭、俺。次点が親父。


「川のそばで拾った石が燃えたって、村の人が父さんのところへ持ってきたんだって。早く見せたいって手紙と一緒に。ほんとウチの父さんって子供っぽいよねぇ?」


 笑いながら事もなげに言うが、それで良いのか?水中に保管しているとはいえ、燃える!?石なんて危険物を身近に置いて良いのか?


「大丈夫なのか…?」


 ドン引きしながら尋ねた俺は悪くない。この家族には誰かツッコミ役が必要なのだ。


「んー?たぶん”黄リン“だと思うのよね。水に浸けておけば大丈夫よ」


「オーリン?…まあ、大丈夫ならそれでいいか」


 ヘルギさんやマディは時折、全くわからないことを言う。けれど大丈夫というのだから大丈夫なのだろう、という謎の信頼感と実績がある。


「よし、調合終わり。丸薬にする?粉薬がいい?持ち運ぶなら丸薬で、効きが早いのは粉薬だけど」


「半数ずつで頼む」


「はーい。

 むーすんでひーらーいーて。手ーをー打ってむーすんで。まーた開いて♪ いやいやせっかく包んだもん開いたらアカンがな」


 薄い紙で手際よく粉薬を包んでいく義妹の周囲は薄い天蓋に包まれ、眼鏡を掛けた上に口や鼻も折った紙で覆っているため表情は全く読めない。せっかくの愛らしい顔が台無しだが、これでいいらしい。メロディーも歌詞も謎の歌を今日も口ずさんで絶好調だ。


「確かに平民のまんまじゃ各家から争奪戦になるな…」


 生まれた頃から知る妹分が貴族籍の上でも妹になると告げられた時の、親父の苦渋に満ちた顔を思い出して、小さく溜息を吐いた。

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