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マドレーヌ13歳、秋。~王都は今日も賑やか~

「お養母様たち、お話弾んでるかなあ?」


「あの親父とじゃあ無理だろ」


 無事にお目当ての品を買った後、両親を雰囲気の良いカフェに置いて兄妹は市場を散策していた。仲の良い夫婦にデート気分を味わって欲しいのもあったけれど、ダルドワーズから見せられた薬草リストに違和感を覚えたからだ。


「ね?ほら、わざわざ軍人さんに依頼しなくったって市場で普通に売ってるものばかりなのよ」


「要するに、希少でも劇薬でもない?」


「そう。よく似た毒草もないし、安価安全安心、3拍子揃ってとっても良心的」


 マドレーヌの言葉にダルドワーズは顎に手を当て、ずらりと薬草名が書かれたリストに目を通す。


「これ、全部使うと何の薬になるんだ?」


「ちょっと待ってね」


 マドレーヌは目を閉じ、何かに触れるように右手をそっと前に出した。スマホやタブレットをスワイプするように指を動かすごとに、過去の膨大な記憶が写真のように鮮明に蘇る。いわゆる完全記憶能力だ。転生チートというやつかと思いきや、実父も同じ能力を持つので遺伝らしい。ちなみに実父は手を突き出して記憶を掴むような仕草をする。


「いわゆる下剤ね。解毒の時にも使うみたい」


「毒……」


 目を細め、眉間にしわが寄る。物々しいオーラに周囲から人が遠ざかるが思案中のダルドワーズは気づかない。なるほど、こうして見れば教会の屋根の四隅に鎮座して下界に睨みを利かせるガーゴイル像に似ていなくもない。


「作れるか?」


「材料があれば幾らでも。手間賃はいつもの村人割引に今なら家族割で更にお安く」


「頼む。なるべく早めに欲しい」


「おっけー。まいどありー」


 ダルドワーズはガーゴイル感もそのままに薬草売りの露店に乗り込むと、恐れ慄く店主にリストを見せてコメルシー家に運ぶよう(ことず)けた。恐慌状態に陥りながらも薬草を間違えることなく梱包していくとは、なかなかに商魂逞しい店主だ。


「なにか起こりそうなのね?」


「ああ、いや、気にしすぎならそれで良いんだがな…?!」


 兄妹は揃って周囲を見回した。遠くから微かに耳に届いたそれは、重くて硬い靴音。ダルドワーズにとって馴染み深い軍靴の音が幾つも折り重なり、拡散する。それは只事ではない事態が今まさにこの近くで発生している証左であり――。


「…ダル義兄さま、お茶にしましょうよ」


「…そうだな。親父たちのとこに合流するか」


 面倒事はごめんだ。兄妹は踵を返す。

 ここは王都、第一部隊の管轄だ。ただでさえ縄張り意識の強い軍部にあって特に()()()()第一部隊に休暇中の第三部隊員が単身首を突っ込んで、好ましい顛末など見えない。それに指揮命令系統を乱す原因にもなってしまう。


「まあ?何かしら?」

「事件か事故か?」

「スリみたいなチンケな捕り物じゃなさそうだな」


 王都の中心に近づくにつれ、人々のざわめきが大きくなっていく。そして軍靴の音もまた近くなる。


「ん?」


 マドレーヌは視界の端にさっと動くものを捉えた。それは一瞬のことだったが、確かに見覚えのあるもので…。


「どうした?」


「たぶんね、この騒ぎの元を見つけちゃった」


「あー……」


 建物に身を隠して騒動を見物しているのは、大きなキャスケットの少年。そして縄らしきものを手に、彼を捕まえようと手を伸ばす男たち。

 ごっそり感情の抜け落ちた妹の表情と視線の先から厄介ごとの予感を察した兄は、かける言葉もなく、ただ肩をぽんぽんと叩いた。


「ルゥくーん!もう帰りますよー、どこですかぁ?」


 ため息ひとつ。厄介ごとを背負うリスクと、もしも何かあった時の寝覚めの悪さを天秤にかけ、安眠をとったマドレーヌはさも迷子の弟を探すふりをして野次馬の中に飛び込んだ。

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