マドレーヌ13歳、秋。~そうだ、街に行こう~
安息日、コメルシー男爵家では決まって家族団欒の時間が取られる。立派な髭を蓄えた威厳ある男爵。深みのある茶色の髪をきっちり結い上げ、同じ色の瞳を細めてマドレーヌをみる男爵夫人。男爵そっくりの顔立ちで筋骨隆々な男爵子息。そこに今、マドレーヌも混じって、お茶を楽しむ。紅茶の時もあれば、薬草茶になったり、コーヒーになったり。その時々で飲むものは変わるけれど、彼ら3人と過ごす時間はとても穏やかだ。
「お養母様は今日お忙しいですか?わたし街に行きたいの」
ドレスや宝石などの大物は外商を呼んで買うこともあるけれど、マドレーヌは街に出て賑わいを感じながら買い物をするのが好きだ。料理長のソーヤーに頼み込んで買い付けに同行したり、養親にお願いして街に出掛けては仕入れた情報を田舎の父と共有して商品づくりに活かす。――これは最早、仕事ではないだろうか?社畜は死んでも治らない?など、心中から浮かんでくる不穏な感想はそっと奥底に仕舞い込んだ。
「あら、娘と一緒にお出掛けなんて嬉しいわ。欲しいものがあるの?」
「モニカ様のおうちにお呼ばれしたでしょう?それでね、個人的にも贈り物をしたくって」
先日、コシチェ家からお茶会の招待状が届いた。コシチェ家、ウォルト家と3家で家族ぐるみで親睦を深めたい旨も記されており、養母と2人で訪問することになっている。貴族家に相応しい手土産は養母が選定してくれるが、その他にモニカ個人への贈り物も準備したい。
「それじゃあ、雑貨店が良いかしら?とりあえず6番通りに行きましょうね」
「秋は日の落ちるのが早いから昼過ぎには帰って来なさい。王都とはいえ大通りは比較的安全だけれど路地には行かないように。声を掛けてくる不埒な男がいたら無視して名前と容貌を後で知らせなさい。それと」
「あなた」
「…荷物持ちを2人付ける」
「カフェにも寄り道しましょうね」
放っておくと100ヶ条になりそうな養父による外出の心得を呼び掛けだけで制し、養母は執事にテキパキ指示を出す。世間ではコワモテで通じているらしい養父だが、身内の女性には滅法弱いのだ。
「いいなー。俺も行こうかな」
「ダル義兄さまが一緒なら安心ね」
「おう、荷物持ちなら任せとけ。石像ぐれーなら持って帰れるぞ」
「……」
母娘水入らずかと思いきや息子も名乗りを上げると、男爵の眉毛がピクリと動く。
「じゃあダルはマドレーヌ専属の護衛兼荷物持ちね。あなた、わたくしの専属護衛を務めてくださるでしょう?」
「無論」
「じゃ、さっさと支度すっか。安息日じゃあ夕方には店が閉まっちまう」
「皆でお出かけだなんてとっても素敵!大好きよ、お養父様、お養母様!ダル義兄さまも!」




