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マドレーヌ14歳、晩夏。~大いなる誤解〜

「じゃあ、昨夜は…」


「はい。1晩中掛かって調べておいででした」


 キラキラ輝く眼の下に薄く隈を作った助手が言うには、伯父は診察拒否をして侍医局に戻った後から様々な文献を取り寄せ夜っぴて調べ物に勤しんでいたらしい。


「なるほど。お疲れでしょうから本日は軽作業から初めて、集中力が必要な業務は後回しに致しませんか??」


 時間も寝食も忘れるくらい没頭してぶっ倒れるようにして眠ったのだろうと想像がつく。これで起きてからも集中力が必要になる仕事をさせれば体が保たない。


 下の伯父はスケジュールの組み立てや部屋の整理が苦手で、その手伝いも助手の仕事だ。遠慮する唯一人の私設助手に短い仮眠を取らせ、その間に局長室の片付けをする。書き散らかしたメモは中身を見ながら同じ分類で仕分けし、「あるべきもの」を「あるべき場所」に「あるべき量」だけ補充する。伯父が長年愛用しているインクは容器が変わってしまったらしく、新しいインク壺から入れ替える。察するに、下の伯父は思い描くイメージとズレると認識しないタイプの人間だ。同じ商品でもパッケージや容器の形状が変わっただけで別物と判断して見つけられなくなるのだと思われる。


「おはようございます。ご朝食はこちらに用意してございます」


 簡易ベッドの軋む音が聞こえたら朝食を机の上に置いて部屋を出る。私設秘書が料理の担当部署に言付けて用意してくれたハムチーズ・サンドイッチと、コーヒーには砂糖も決まった量だけ入れてミルクはなし。サンドイッチならば確かに手軽だし手も汚れないし、緊急時には残して後で食べることもできるけれど、朝も昼も同じ味で良くもまあ飽きないものだ。


「助かりました。身支度は私が」


「はい、お願いします」


 短い仮眠から戻って来た私設秘書と交代して薬草の仕分けでもするかと座れば、公設助手達にやんわり遠ざけられた。


「女。その…、そう熱心にならずとも良いのではないか?幸いに、此処は人手もある」


 極めつけが上級医のこの態度である。昨日突っ掛かって来たのが嘘のように気遣わしげな声音と表情で、包装まで豪華な有名店のお菓子もくれた。一晩経ってのこの態度、昨日帰った後で何事か起きたとしか考えられない。


「あのぉ?」


「まさか幼少の砌より過酷な仕打ちを受けてきたとは」


「???」


 曰く。

 ようよう歩けるようになった頃から薬草の選別を厳しく指導され、時には高い木の上や崖にある薬種の採集もさせられた。文字が読めるようになれば医薬学の難解な書物が与えられ、時には罪人が如くに部屋に閉じ込められ只管に書物を読み解くことを強要された。長じてからは他家との交流も許されず広大な薬草園でより良い薬種の生産管理を命じられ、云々。

 出るわ出るわ、教育熱心を通り越して虐待風味の“哀れな幼少期”。まるきり捏造なら一笑に付してやれるのだが、一つ一つの事象だけ抽出すれば思い当たる節がある事実だから始末が悪い。ということは、犯人は唯一人。


「カザンさん?」


「私はただ事実の列挙をしたまでですよ」


「カザンさん!」


「我が子だというのにまるで使用人の如き、否、子供らしい楽しみも与えられず医薬の為のみに生きろと言うが如き育て方をされて来たのだな」


 自分の子供や孫がオーバーラップでもしたか、目頭を押さえているが盛大な勘違いだ。薬草の選別は“おてつだい”だし、危険な場所にある薬種の採集も読書も“遊び”だ。部屋に閉じ込められるのは、まあ置いといて、他家との交流もちゃんとあった。ただ同じ年頃の子供がいなかったので、どうしても家族と過ごす時間が多かっただけのこと。薬草の生産管理は父との共通の趣味の一つだ。


「駄目じゃないか兄さん、事実はちゃんと正確に伝えないと」


「フルンお兄ちゃん」


「つい最近も北方の地で軟禁されたし、父さんはマドレーヌを娘ではないと明言している。名前だって呼ばれたこともないでしょう?」


「フルンお兄ちゃん!」


 この2人、態と誤解させようとしている!その理由は言わずもがな。



「それは…辛かったろうに。よくぞ耐えて仕えているものだ。此れからは我々を頼るが良いぞ」



 あからさまな、同情票の獲得だ。

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