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マドレーヌ14歳、晩夏。~業務の属人化を解消します!〜

「だがまあ、見目は悪くない。まだ幼いが数年経てば頃合いも良くなろう」


「今すぐ口を慎みなさい!淑女に対して決して赦される発言ではありません!!」


 ゴチャゴチャ揉めているのを聞きつけたカザンディビが慌てて部屋から飛び出し上級医を止めるが、侍医局長と同じくらいか少し年上だろう男は脂ぎった目をさらに嫌らしく歪め鼻を鳴らして嘲笑う。それを見た助手も続々と立ち上がり、カザンディビを支持するように相対す。


「そら見たことか兄はおろか賤しき身分の助手まで誑し込んで、流石は愛じn―――ッ?!痛ッ!!!」


「あら、こちらの籠の土が飛んだようですねぇ。始末の悪いのはこれだからいただけません」


 無惨に毟られた雑草に付着した細かな土の粒を指先でピンと弾いて飛ばせば、セクハラ親父の視界と言葉を封じるのには充分に役立った。適材適所、一見役に立たないものであっても使いようがあるものだ。


「私を誰だと思っている!たかが小娘一人その気になればすぐに潰してやる!!」


 セクハラにパワハラまで乗っかった上級医が盛んに唾を飛ばして喚く。余りの喧しさに苛立ち思わず睨みつければビクリと体を震わせ黙りこくった。予想以上の打たれ弱さだが、よしよし、静かになったのは良いことだ。見当違いな侮辱の件は後で然るべき対応を取るとして、今は不愉快かつ不毛な職場内対立の収拾をつけるのが先だ。


「さてさて、お集まりの皆様。只今の此の方のご発言をお聞きになりましたでしょうか?」


 男の大きな喚き声が止んだ事で静まり返った室内をぐるり見回し、わざと明るい声で呼び掛ける。怒鳴り声という暴力で抑圧されていた場の空気が一気に解放されて皆の表情にもわずかな余裕が生まれる。


「薬種の選別は誰にでもできる作業と仰るなんて、わたし、とても感動しているのです」


 余裕という名の隙間に放り込むのは予想外の言動のほうが都合良い。案の定、思考が追いつかないのだろう、皆キョトンとして次の言葉を黙って待っていてくれる。


「読み書きができない、身体に著しい障害がある、または医薬学の専門的知識がない。そうした人々でも薬種の選別を簡単にできるような仕組みを構築されるとの事!皆様、盛大な拍手を!」


 掌を豪快に叩いてパチパチとよく響かせれば釣られて誰かが拍手をし、隣の人間が拍手していればまたついつい釣られ。連鎖反応で拍手の輪が広がり、誰からとなく「素晴らしい心掛け」「我々なんかにはできない」と賛辞の声も混じる。これは日頃の意趣返しだろうな。


「え?え?」


「局長がお戻りになりましたらご提案の内容と満場一致で承認された旨、早速お伝えせねばなりませんね」


「そうですね!」


 未だ状況が飲み込めずキョロキョロ周囲を見回す姿を余所にそう畳み掛ければ、気の利く公費採用の助手は経緯をまとめた文書の作成に入る。実に手慣れた動きだ。さては必要な提出書類なんかも押し付けられているのだろう。


「薬草の選別は各個人の選別眼に任されていましたから、全くの素人でも見分けのつく仕組みが出来れば作業効率は飛躍的にアップ!製造されるお薬の品質も向上!」


「え、いや…」


「そればかりか、皆様それぞれの研究も捗りましょう!」


「稟議書を作成致しました!どうぞご査収ください。侍医局長様も直にお戻りになるでしょうからその前に是非」


 ここまでお膳立てされたらやらないわけにいかない上に、ヒィヒィ頑張って乗りきっても「言い出した以上は出来て当然」と評価されず、逆に業務が滞ったりミスがあれば「無能者めが」と「断罪」される、どっちに転んでも明るい未来は見えない地獄みたいな業務である。自らが無理難題を課されたと気付いた頃には時既に遅し。先程まで荒ぶっていた上級医も嗜虐心を唆られたか、にやにや意地の悪い顔で部下を褒め称えている。



「大変に不愉快極まりない言葉を聞かせてしまいました。申し訳ありません、レディ」


「カザンさんのせいではありませんよ」


「その上、局内の諍いも丸く収めてくださって。どう感謝の言葉を伝えれば良いか」


「今は揉めている時ではありませんから。一先ず、局長のお戻りを待ちましょう」


 今は侍医局が薬物騒動の渦中にあり、信頼回復が最優先。揉めている時間も勿体なければ、ぎゃあぎゃあ煩いハラスメント親父の処分なんて後回しで良い。




 ――そんなもの、いつだって出来るのだから。



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