マドレーヌ13歳、秋。~色気より食い気なお年頃~
程なくして運ばれてきたティースタンドの、まずは1段目にマドレーヌの意識は引っ張られた。
弱火でじっくりグリルした牛肉を挟んだステーキサンドはしっとりやわらかく、噛むほどに脂の甘さと凝縮した旨味が溢れ出す。薄切りパンにしっかり塗られたマスタードバターがキリリと効いて後味を引き締めてくれるので食べ飽きるということはない。むしろもう1つ、あと1つと手が伸びる。
たまごサンドは黄身はホクホク、白身はプリプリ。混ぜ込まれた香草のピリッとした辛みが実に爽やかだ。これをステーキサンドの合間に食べることで舌が新しくなり、ステーキサンドの一口めの感動が再び味わえる。
2段目に盛られたミートパイはバターの風味豊かなことと言ったら!幾層にも重なった生地が香ばしく焼き上げられ、サク、サク、サクと幸せな音を立ててホロホロ崩れるパイの中から満を持して現れるミートフィリングは牛肉のコクと野菜の甘みがあいまった優しい味わい。
スコーンは焼きたてで、割ると湯気がほわりと立ちのぼるほど。外側はザクザクと硬いように思われたが、中はしっとりふわふわ。クロテッド・クリームとジャムをたっぷりつけて食べれば背徳の美味である。
最上段の3段目は最もカラフルで見た目にも美しい。
空に浮かぶ雲を焼き上げたような見慣れないお菓子は、口に入れるとふわんとした甘さだけを残して溶けた。
一口大のブリオッシュをクリームとレモンピールで飾ったケーキは爽やかな甘さと香りが口いっぱいに広がり、ステーキサンドの次にマドレーヌのお気に入りになったが2つしかないのが恨めしい。
どれもこれも大口を開けなくても食べられるひと口、ふた口サイズ。その配慮は素晴らしいけれど育ち盛り食べ盛りのマドレーヌには物足りない。食事寄りのハイティーでこれでは、万が一にでも本格的なお茶会で饗されるというアフタヌーンティーに招待された際には、事前になにかお腹に入れていこう、と心の中で決意する。
「あぁ、なんてこと…天国はここにあったのね」
ティースタンドの料理をぺろりと平らげ、お腹もすっかり落ち着いて恍惚感に浸りながらマドレーヌは周囲を見渡した。
2人のいる席は背の高い植木と豪華な調度品のお陰で他のお客の死角になっているが、こちら側からはフロア内のほぼ全ての席が見渡せる。店に居るのは皆、紅茶を飲む仕草さえ優雅な人ばかり。この席は行儀作法に不慣れなマドレーヌへの配慮らしい。
手慣れたエスコートといい、諸々のさり気ない気遣いといい、この兵士は貴族か、いいところの家の出身に違いない。思わぬご縁をタナボタでゲットだぜ!心の中でほくそ笑むマドレーヌは、男がじっとこちらを観察しているのにしばらく気がつかなかった。
「……あ、あぁーッ!あんまり美味しくってつい、そのぉ…、失礼しました!」
やっちまった。おいしそうな食べ物を前に清楚系の化けの皮がすっかり剥がれたマドレーヌの、貴族令嬢らしからぬガツガツ食いに呆れられたか、ドン引かれたか。せっかく掴んだ太い良縁がぶちんと切れる音が耳の奥から聞こえた。




