マドレーヌ13歳、秋。~お茶会狂騒曲/ Scherzando〜
「あら?ご機嫌よう。今ちょうど、モニカ様から順番にご紹介いただいておりましたのよ。お聞きでありませんでした?」
突然のご乱行に場が静まり返ったのを見計らい、もの知らずの田舎者らしいキョトン顔で見つめてみる。攻撃的な性格から予想した通り、プティチエは煽り耐性が低いようで苛立ちを隠さずこちらを睨めつけてくる。きゃあ、こわーい。他のテーブルの人達も見てるよ?
「あなたの番はもう少しですから、お待ちになって?」
ぱっちり目を見開いて、コテンと首を傾げて、唇を尖らせて人差し指を当てる。この上目遣いの絶妙な角度をとくとご覧なさい。火に油どころかガソリンを注ぐ、大炎上待ったなしな極上の煽りを最小限のエネルギーで発揮できる優れもの。義兄を笑わせる為に研究した成果を存分に披露してやろう。ふははは。
「はァ?!これだから田舎者は嫌なのよ。マナーも何もあったものじゃないわ」
「まあ。わたし、王立学院のマナーの先生に、ちゃんと席順を教わりましたわ。そして、下位の方は上の方にお声がけされるのを待つのがマナーだとも教わりました。もしかして、あなたのお住まいのところでは異なるのでしょうか?」
わざとらしい無邪気さを装い、極め付けに、ぱちぱちぱちぱちと高速瞬きで畳み掛ける。どうだ苛つくだろう?
そのままエーブレスを見ればゴフっと妙な咳をしだし、ミラベルには顔を逸らされた。モニカすら顔を真っ赤にしながらカップで口元を隠している。いいぞ。完全勝利は近い。
「なッ…!」
プティチエは改めてテーブルの面々を見回し、そうしてぐるりと周囲にも目を向けた。
円卓の場合、モニカの真正面は下座。最も地位の低い者が座る場所だ。このテーブルでの順位は、モニカ、マドレーヌ、エーブレス、ミラベルと続き、プティチエのご友人、最後がプティチエとなる。
爵位が同じ場合、席次決めには貴族としての経歴の長さ、領地の有無、最上位者との関係性の深さなどが加味される。領地を持つモロコ男爵の令嬢であれば、法服貴族であるミラベルよりも下位に座ることはないのだ。とすれば、理由は一つ。
<プティチエは“モロコ男爵所縁の者”であって、男爵令嬢ではない>
のだろう。他でもない王立学院のお達しだ、イチ学院生如きに覆せるものでもない。
「あな、あな、あなたねぇ」
ワナワナしているが、今は授業中。マナー云々は王立学院の教師を侮辱することになる。取り巻きは状況を察して知らん顔を決め込んだ。が、見逃してやるほど甘くはない。
「あなたも、お人が悪いわ。そちらの方の付き添いなのでしょう?不慣れでいらっしゃるのだから、よくよく見て差し上げてくださいね?」
レディズ・コンパニオンは裕福な若い女性に付き添い、客人のもてなしや社交を助ける役割を担う女性のこと。田舎から出てきたばかりの俄か令嬢に未熟者の烙印を押されたプティチエは憤死せんばかりの険相をみせるが、取り巻きは肯定も否定もせず、ただ曖昧に笑う。
そうだろう。上位者の許可なく真っ先に発言し、会話を遮り、大声を上げ、乱暴に振る舞うプティチエを擁護すればこの授業は落第確実。けれど肯定してしまうと後が恐ろしい。どっちに転んでもアウトな状況下では、どうもしないのが最善策なのだが。
――裏切られた、とか思ってそうだなぁ。
過剰攻撃は本意ではない。上位者としての責務は果たせたのでもういい頃合いだ。モニカにそっと目配せして、ティーカップの取っ手に触れる。
「んッ、お茶が。冷めてしまいましたわね、新しいものを」
込み上げる笑いの余韻を堪えながらも発したモニカの言葉に給仕係が動きだし、新しい紅茶がそれぞれに運ばれる。プティチエも取り巻きも、これ以上醜態を曝すのは下策と考えたのか、すっかり大人しくなっている。
「このクッキー、とてもおいしいわ。ジャムも色とりどりで美しくて。皆様、どのお味がお好きですか?」
サク、サク、とクッキーを噛む音に、騒がしかったお茶会は上辺だけではあったが穏やかさを取り戻した。




