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マドレーヌ13歳、秋。~サロンデビューしました~

「こちらマドレーヌ・コメルシーさん。刺繍は始めたばかりだけれど、とても熱心なのよ」


「未熟者のためご迷惑をおかけすると思いますが、ご指導ご鞭撻のほど、何卒よろしくお願い申し上げます」


 新入社員みたいな堅苦しい挨拶になったが、まあいい。今更気にしても仕方ない。


「マドレーヌさんはお若いのに刺繍がお好きなのねぇ」


「まあ可愛らしいこと。おばあちゃんですけれど仲良くして頂戴ね」


 さんざん悩んだ挙句、授業で面識のあるギモーヴ夫人の刺繍サロンに決めた。あまり若い人は居らず一番若い女性でも実母や養母と同年代くらいか。穏やかなご婦人ばかりで時がゆったり流れている。ドレス姿の婦人が優雅に刺繍を楽しむ光景はまるで絵画のようだ。


「なんと!特別な祭祀のお召し物には全面に精緻な刺繍が施されているのですか!」


「そうよ。金糸をふんだんに使った、ステッチも細かいものでね。神話の一節を描いているのよ」



「宝石をあしらった刺繍もあるのですか!さぞかし煌びやかで、刺繍職人さん達も丹精込めてお作りになったのでしょうね」


「有名なのは亡くなられた前王妃陛下の婚礼衣装ですわね。5年掛かりで作らせたものだそうよ」


 自分の知らない世界(こと)を惜しみなく教えてくれる。もし祖母がいたらこんな感じなんだろうか。現世に祖父母はいないし、前世でも祖父母に親しみのなかったマドレーヌにはよくわからない。けれど楽しいひと時だ。


 暖かな秋の陽気の下でお茶を飲み、刺繍をする。合間のおしゃべりで最近の流行や経済の動向などの情報交換、加えてマドレーヌの教育もしながらだ。のんびりしているように見えてもさすがに貴族のご婦人方である。


「マドレーヌちゃん、わからないことがあったら聞いてね?」


 世間話にいちいち頷き相槌を打っていたら随分と気に入られたようで、サロンのご婦人方からはいつの間にか()()()付けで呼ばれるようになっていた。


「実は義兄(あに)に贈るハンカチーフが、なかなか上手くいかなくって…」


「まあまあ、兄妹仲が良いのねぇ。お安い御用よ」


 数人のご婦人から手ほどきを受け、不器用でもそれなりに見せるコツを教わったマドレーヌはほくほく顔で紅茶とお菓子をいただく。


「うわわわッなにこれすごいおいしい!サックサクでホロホロの食感も絶妙だし濃厚なバターの香りとコクが口中に広がる幸福感ったらないわ。あぁ、あぁ、女神様、今日もありがとうございます」


 バタークッキーを一口頬張るや否や驚きと恍惚の表情を浮かべながら両手を合わせて拝み始めたマドレーヌにご婦人方は顔を見合わせ、含み笑いを交わす。


「そのクッキーはクーク夫人のお手製なのよ。クーク夫人はお菓子づくりの名手でいらっしゃるの」


「うふふ。お口にあって何よりだわ」


 クーク夫人はギモーヴ夫人と同年代の、ふくよかな女性だった。水色のドレスと同色のモブキャップに眼鏡姿。見るからにおいしいクッキーを焼いてくれそうなご婦人である。


「今まで生きてきた中で一番おいしいクッキーです!これほどおいしいクッキーがお家で食べられるなんて、ご家族は幸せですね」


「うちは男所帯で、何を作ったって感想一つ、おいしいすら言わないから作り甲斐がないのよ。その点、やっぱり女の子はいいわねえ。よかったら今度うちにも遊びに来て頂戴な」


「よろしいのですか?!ぜひお言葉に甘えさせてください!」

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