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マドレーヌ13歳、秋。~サロンと騎士と秋風と~

 サロンは絵画、文学、哲学など1つのテーマを定めて行う集まりのことで、個人の邸宅のほか、ギャラリーや音楽館などを貸し切って行われるのが常だ。年齢性別を問わず参加でき、富裕層は支援している芸術家を紹介したり、芸術家はサロンで存在感を見せつけてパトロン探しをする。

 元は大人が知的満足を得るために催す会であったが、近年は参加者は皆対等であるという建前を心得違いして、若者を中心とした()()()()()振る舞う会もあるとかないとか。


「モニカ様はサロンに参加されたことはありますか?」


「わたくしは母の縁で、絵画サロンに参加したことがございます。王立美術アカデミー会員の方が私的に催された会でしたわ」


「ブリガ様はサロンにs」


「わたくしの家は参加ではなく主催する側ですの。そうね、田舎者の貴女に教えて差し上げますわ。サロンで一目置かれることは即ち、その世界での後ろ盾を得ることでもありますの。ですからデイロ家のサロンは元より人選を行なっておりますけれど、お連れ様が増える余り、時には参加をお断りしなければならないほどですのよ」


「へえ!すごいですねぇ」


 ずっと顔を合わせなかったのが功を奏したのか、あのブリガ・デイロとも仲良く…とまで言い難いが、世間話ができる程度には平穏な間柄になった。今日も今日とて輝かしい衣装で何よりだ。


「ふん。貴女のようにマナーのなっていない不心得者が参加しても恥をかくだけですわ。どうしてもというなら、学院の紹介するサロンにでも行くことね」


「なるほど!ありがとうございます」


 態度や言葉にこそ棘があるが、田舎では知り得なかったアレコレを面倒がらず教えてくれるなど親切だったりもする。それを知った時は「これがリアルのツンデレか!」と感激すらしたものだ。



 さて。ブリガ・デイロの言う通り、王立学院の教務課では社交経験の少ない学院生でも参加可能な有閑マダム達のサロンを紹介してくれる。ある程度のマナーを身につけていることが参加の条件で、あとは実践で社交のイロハを学ぶのが目的だ。


 学院生にとっては、既に引退したとはいえ本物の社交界に君臨してきたマダムから生きた指導を受けられる。

 マダムにとっては、自身の影響力の維持と社会的義務(ノブレスオブリージュ)を同時に果たせる。


 まさにWin-Winである。


 *****


「それで、ぼんやり歩いていて(つまず)いたと」


「はい。その…、考えに没頭して足下が疎かになりまして。面目ない…」


 地面に落ちたストールをジョニーから受け取り、マドレーヌは深く項垂れる。


 放課後、初心者マークでも参加できるサロンを教務課で幾つか教えて貰った。きっかけは色気たっぷりなご令嬢パルフェの忠告だけれど、たしかにサロンへの参加は社交を肌で学ぶいい機会でもある。できれば優しい人が多くて、あんまり喋らなくて良くて、雰囲気を味わえるサロンはないものか。考えごとをしながら歩いていたせいで割れた石畳に気付かず踏み抜き、転びかけたのをジョニーに抱き留められて今に至る。


「今回は間に合ったから良いものの、お怪我をされては大変です」


「いえいえ!たとえ不意を突かれてもちゃんと受身は取れますのでご安心を」


「ええ、コメルシー様がお強いことはわかっています。それでも」


 ジョニーは少し逡巡した後、その場ですっと片膝をついた。


「どうか。今はまだお守りすることは叶いませんが、貴女の身を案じることをお許しくださいませんか?」


 切なさと哀しさが籠った甘い声。瞳には真摯な光が宿っている。跪き願うジョニーの姿を見て、マドレーヌは心に溢れる気持ちを抑えることは出来なかった。


「素晴らしいです!ジョニー様の精神(こころ)は既に騎士様なのですね」


「はい??」


 戸惑うでも恥じらうでもない、純粋な驚きと喜びの声。予想外の反応に面喰らったのはジョニーの方だった。


「騎士様は女性や子供を守るのが務めなのでしょう?わたし騎士様のお作法は初めて見ましたけれど、格好いいですねぇ。将来ジョニー様が守護する地は安泰です!」


 一部の騎士団が貴族の名誉職に成り下がっているのは有名な話らしい。聞けば、彼らは地方に派遣されると日頃の鬱憤を晴らすかの如く不埒な行いに及び、田舎では「野盗か騎士団か」とさえ言われているという。身分の関係で重い処罰を下せないようだが、今後、ジョニーのように心のある騎士が段々と増えれば王国の未来は明るい。


「あ、ありがとうございます。これからも精進致します」


 子供の成長を喜ぶ親のように大袈裟に喜ぶマドレーヌを見て、ジョニーも毒気を抜かれて稽古終わりにいつも言う台詞を口走る。


「じゃあ、わたしは図書館に行きますのでジョニー様は剣術のお稽古がんばってくださいね。今日は本当にありがとうございました。また明日!」


「はい、明日また……お傍に居させて頂けるのなら」


 最後の言葉は、秋風に融けて消えた。



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