マドレーヌ13歳、秋。~お色気令嬢との出会い〜
校舎前には各教師の半年分の授業予定を貼り出す掲示板があり、各々がそれを見て受講する科目を決める。半年で卒業を目指す人々は入学前から全受講スケジュールを教務課に提出するらしいけれど、だいたいは1週間に1回、週末までに次週の分の予定を提出すればいいことになっている。受講する人数に応じた広さの教室を確保するための規則だ。
「しばらく実技の日は1時限目を休みたいなぁ…」
ダルドワーズ達の指南の甲斐もあってか、剣術実技を受講する学院生は例年より概して高評価だそうだ。講師役にも褒められたとジョニーが嬉しそうに報告してきた。順調そうな彼らと対照的に、お茶会での褒め言葉のタイミングや会話の作法などを詰め込んでいる最中のマドレーヌの表情は暗い。
「…っと」
背後に感じる気配にマドレーヌは掲示板の前から退いて脇にずれた。が、相手もまた移動したようだ。
「ご機嫌よう、コメルシーさん」
「ご機嫌よう。ええっと…?」
振り返った先には深い青色の髪をゆったり左に流した妖艶な美人がいた。右目の下の泣きぼくろがセクシーな、ひと目見れば忘れ難い美貌だがマドレーヌの記憶の引き出しをひっくり返して探し回っても出てこない。
「お初にお目にかかります。わたくし、パルフェと申します。王宮法務官のオカフェ伯爵の支援を受けて昨年より王立学院に通っておりますの」
「はじめましてパルフェ様、コメルシー男爵家のマドレーヌがご挨拶申し上げます。お会いできましたこと光栄でございます」
いつぞやは失敗した初対面の挨拶だが、度重なるシミュレーションの成果が出た。安堵するマドレーヌにパルフェは10代とは思えない退廃的な美貌を隠すことなく、むしろ誇るように、艶やかに微笑んだ。
「本当はゆっくりお話したかったのだけれど、時間がないから単刀直入にお伝えしますわねぇ?貴女、なるべく早くサロンに参加なさい。これから新しく貴族社会に仲間入りするなら社交は重要よぉ」
「はい、パルフェ様。ご忠告痛み入ります」
パルフェは口調こそのんびりしているが、その裏に切迫感が見え隠れする。これがわからせ案件なら他の誰かが見ている場所でやるものだ。わざわざ1人の時間を狙って、人目につき難い時間に声をかけてくるなど、親切以外の何ものでもない。
「わたし田舎育ちで、お恥ずかしながら都会に疎くて。こちらには噂好きの要注意人物が咲くと聞きますが?」
「そうねえ、モロコ男爵のお庭には見事な花が咲いていると聞くわ。甘い蜜を求めて随分とたくさんの蝶々が集まっているそうよ?」
同性でもうっとりする流し目で、パルフェは学院街へと続く道に視線を向けた。




