マドレーヌ13歳、秋。~ちょいとここらで考察~
モニカとジョンをコシチェ家の馬車まで見送ったマドレーヌは一人、図書館で調べ物に勤しんでいた。今日からは剣術指南を終えたら義兄が図書館まで迎えに来る手筈になっている。いかな体力馬鹿、剣術馬鹿とはいえ、目の前で友人が倒れたとあっては自粛もするのだ。
そんなわけで法律書や歴史書、王立学院のシステムに照らし合わせて、この世界で乙女ゲーム的展開が可能かどうかを考えてみた。
「パターンその1。身分違いの恋は99.9%無理筋ね」
なにしろ出逢うチャンスがない。
現世はガチガチの階級社会で、大衆と貴族はしっかり分断されているし、貴族も伯爵位を境に身分差が明確だ。ジョンやブリガ・デイロといった、平民でも王立学院に通える身分の者たちは大衆と貴族の中間層といったところか。教養も資産も申し分ないとしても男爵・子爵位とは立場上、明らかな差がある。特に就職や結婚などのライフステージにおける選択肢が顕著だ。
王族に謁見して直接お言葉を賜れるのは伯爵位以上と定められている。王立学院を例に取れば、平民から子爵家までの子女がビギナーコースに通う頃、伯爵位以上の高位貴族はほとんどの場合、家庭教師をつけて基礎を学ぶ。そしてビギナーコースを卒業した彼らが就職や婚姻する頃、高位貴族はマスターコースで寮生活を送る。まるっきり行き違うように組まれているのだ。
稀にビギナーコースから王族も在籍するマスターコースに進学する者もいるが、その際は伯爵位以上の家格の者からの推薦と身元保証が必要らしい。ついでに言えばマスターコースは区画からして完全に男女別・直通不可なので、王子様と秘密の逢瀬♡なんてのも難しい。休日に学院街で粉をかけようにも王族や公爵家は侍従や護衛など側仕えにずらっと囲まれる上、訪問場所は厳重に警備されるので近づけない。そもそも買い物があれば店の方が訪問するのが常だし、毒見の関係で気軽にカフェでお茶なんて夢のまた夢だろう。
「パターンその2。継母や継父とその連れ子、いわゆるシンデレラ系も無しね」
王国の法律では、原則、婚姻関係にある夫婦の間に生まれた子供が家督の相続権を有する。既に正しい跡取りがいる場合は相続目的での養子縁組は認められず、貴族籍でも“養嗣子”なのか“養子”なのかが明確に判るようになっている。また、たとえ血の繋がった私生児であっても実子とはならず、夫婦の合意の下で養子にするまではあくまで“所縁の者”、つまり他人として扱われるらしい。
「パターンその3。後添いとの間の子との後継者問題」
身近なところではデライト侯爵家のパターンだ。この場合は本人の資質と親の実家の太さがモノを言う。なので後添いの子が家督を継ぐことも可能だ。けれどもし仮に先妻・先夫の死後、その子供が不遇な扱いをされたら縁者が訴え出て引き取ることもできるらしい。父方が衣食住の面で、母方が教育面で投資してきたというのが根拠らしい。なので面倒をみていなければ引き取りはできないのだけれど。
「パターンその4。っていうか、学院生じゃあ浮気自体が無理筋なのね〜」
結婚自体は12歳から可能だけれど、よほど政治的意図の強い婚姻でない限り両者が15歳以上になってから公に婚約し、それぞれの立場ごとに定められた婚約期間を過ごしてから婚姻を結ぶ。国内の貴族同士なら長くても2年、つまり学院生の期間と丸被りで浮気どころか婚約者との逢瀬もままならないわけだ。ちなみにどちらかが15歳未満の場合は仮婚約扱いで白紙撤回も比較的容易らしい。勿論どちらかに明らかな瑕疵があれば慰謝料も相応に支払われる。
学院で出会って恋に落ち、休日に学院街で浮気。できなくはないがかなりリスキー。なにしろ学院街の店は国から優良店のお墨付きを与えられる代わりに、素行不良等があれば学院に通報する義務がある。そもそも高位貴族の子女はツケ払いが基本。月末締めで店から各家に明細が送られるので、高額な贈り物など不審な支出があれば丸わかりだ。なので「学院内のことで気付かなかった」という言い訳はできないし、もし本当に気付かなかったとしても監督不行き届きで相手方から責められても文句は言えない。
ちなみに学院内ではやり取りされる手紙類はすべて検閲が入るらしく恋文でも送ろうものなら即バレ。秘密にしたいならテレパシーか狼煙か、そんなもので愛を囁くほかない。
「うん無理だこりゃ。てか何かあったんかこの国?」
ちょっと法律書を読めば、婚姻と出生に関する取り決めがめちゃくちゃ多い。
いとこ婚は原則禁止、ただし家を存続するためなどの合理的な理由があれば可能。
義理でも親子になった者同士の婚姻は禁止。
養子による義理きょうだいは婚姻可能だけれど一度どちらかを他家に出してロンダリングしろ。
婚姻による義理きょうだいは家名が変わらない場合に限り、直ちに婚姻可能。
子供には母親の名も併記して届けろ。
などなど、附記もずらずら長ーく書かれている。どうみても慌てて法整備をしなければならない事態が起きたとしか思えない。
思わぬところで王国の闇に触れたマドレーヌは、パタンと書を閉じた。




