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マドレーヌ13歳、秋。~攻略対象?その2〜

 王立学院のビギナーコースは単位制で、科目ごとに設定された基準以上の成績を修めれば単位がもらえ、すべて取得すれば卒業できる。そのため同じ年に入学しても卒業時期が同じとは限らず、時間割も個人の進度や都合に合わせてある程度は自由に組める。


 また、必修科目の他に“特別活動”があり、こちらは芸術鑑賞や慈善活動、自主研究などが該当する。



「算術とかはいいとして、問題は語学とマナー関連ねぇ…」


 ビギナーコースで習う算術は前世よりも遙かに簡単だし、同じアラビア数字を使用している。現世でも実家の肉屋でぱぱっと会計係も(こな)していたから不安はない。


 しかし語学は厄介だ。話すことは問題なくできるけれど、読み書きは教会の日曜学校と男爵夫人から簡単に習ったくらいで知識も経験もあまりない。しかも平民と貴族では言い回しが異なるのだ!その上、前世の言葉と語学系統がまったく異なるためゼロよりむしろマイナスからのスタート。マナーに至っては、言わずもがな。



 そこでマドレーヌがとったのが『苦手科目は先延ばしにして得意科目の単位をさっさと取得しよう!』作戦である。



 授業はフルで受ければ1日30分×3科目。教室は科目ごとに決まっていて生徒が移動するスタイルだ。合間に15分×2の小休憩があり、食事マナーの講義を兼ねた1時間程度のランチで終わる。

 単位取得の規定は科目ごとに異なるが、算術は試験で正解率7割を超えればクリアらしい。ちなみに試験は事前に申請すればいつでも受けさせてくれるという。



「おめでとうコメルシーさん。合格ですよ」


「ありがとうございます」


 そんなわけで授業開始の初日にして算術の単位を取得した。これで浮いた30分を他の科目に回せる!と拳を握り締めて教室を後にした丁度その時だ。



「おい、そこのお前!」



 背後からの刺々しい声に振り返ると、逞しい体躯の青年が立っている。何故か琥珀色の瞳に怒りを宿らせて。


 ――めんどくさそうな感じの子ね――


 相手にするだけ損だと判断し、くるりと回れ右して何事もなかったかのように次の授業の教室へ歩き出したマドレーヌの腕を男は強引に掴んだ。


「女!無視するとはいい度胸だ!この俺を誰だとおm」


「きゃあぁぁぁ!だれか!だれかいませんかぁ!変質者でぇす!」


 肉屋の売り子で鍛えたよく通る声で悲鳴をあげれば、すぐさま黒い塊がバタバタ押し寄せてくる。さすが王立学院の警ら隊ともなれば動きがキビキビしている。


 駆けつけた彼らが見たものは、屈強な男がか弱い乙女の腕を掴んで無理強いする光景。貞操を重んじる王国では未婚女性に許可なく触れること自体かなりのタブーだ。一発アウトな状況に騎士らは迷うことなく男を拘束した。


「離せ!俺を誰だと思っている!」


 ――さっきもだけど、それ言っちゃダメなやつだってわからないのかしら?――


 身なりや態度から判断して、さぞかし名のある家のお荷物(ボンクラ)なのだろう。名乗りを受けてもいないマドレーヌの知ったことではないけれど。もし名乗られてしまえば身分通りに扱わなければならないが、いまの状況では単なる不審者で済まされる。だからわざわざ言葉を遮って()()()()()()()()()のに。


「いいか!俺の父は」


「算術の教室を出たところであの方が急に!あぁ、めまいが…!」


 最後の授業を犠牲にする覚悟を決め、大袈裟にふらついて壁にもたれる。後でどうなろうと、せめてこの場は有耶無耶なうちに終わって欲しい。そうでなければ明日から少し寝覚めが悪くなる。睡眠不足は美容の大敵、つまり乙女の大敵でもあるのだ。



淑女(レディ)が怯えておられるぞ!君たち、さっさとその不埒者を連行したまえ!」



 マドレーヌの願いが通じたのか、黒い一団と逆方向から(わざ)とらしいほど大股で歩み寄ってきた赤服の兵士が男からマドレーヌを隠すように立ち塞がった。警ら隊とは異なる真っ赤な制服や命令することに慣れた口調から察するに、この兵士の方が立場は上らしい。


「こんなに青褪めて、お可哀想に。医務室にお連れいたしますので、よろしければ手を」



 マドレーヌは迷うことなく、この場から連れ出してくれる大きな手をとった。

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