ポルックス・テュンダ23歳、秋。〜確認作業は重要です〜
「おー、お疲れ。第二小隊の長と副長はどうだった?」
「想像以上の人気です、剣術場を埋め尽くすほどの人だかりで。習得科生の姿もありましたが、揉めることなく指示に従い恙無く」
王立学院内に設けられた控室に戻ったポルックスは、休憩中の先輩騎士の隣に椅子を移動させて腰掛けた。
「第三部隊なんて王都の周りじゃあ滅多に会えないからな。妙な騒動が起こらずに済んで何よりだ」
主に辺境地の守護を担当する第三部隊は王都近郊でこそ知名度は低いが、その実力は折り紙付き。自前で武力を抱えることのできない家や僻地の村々では絶大な人気を誇る。とりわけここ数年は華々しい功績によって大いに名を上げ、王都でも若者を中心にファンを拡げている。
その第三部隊でも最も実力者とされる第二小隊長と副長が来院したとあって、高位貴族の子女が通う全寮制の習得科でも一部の学院生が色めき立った。緊急事態だと言って集団で教員らに詰め寄り、跳ね橋を下ろさせてまで稽古に参加したのだ。腐っても高位貴族のご子息達、万が一があってはならないと監視役を押し付けられたのがポルックスだった。
「先輩、近衛隊の前は第三部隊でしたよね?」
「ああ。絶賛人気沸騰中の第二小隊長や副長とも西方遠征で一緒だった」
「“カンソウセン”というのは第三部隊の慣習ですか?」
「コメルシー殿が第三部隊に広めて、今では第二・第四部隊もやっていると聞くな。まぁ、第一部隊はな〜」
王都とその周辺の守護を担当する第一部隊は高位貴族の子弟が多く所属する関係で階級意識が強く、実力主義の第三部隊とは一方的な敵対関係にある。
ポルックスも辺境伯家が王家への叛逆を防ぐための人質として第一部隊に所属していたので、偏見の強さはよく知っている。なにせ第三部隊と聞いただけで蕁麻疹を発症しそうな連中がうようよ居るのだ、そこで始まった慣習というだけで、どれほど自分達に利のあるものでも採用はされまい。
「驚いたろ?」
ちなみに目の前の先輩騎士は、侯爵家の出身ながら望んで第三部隊に入隊した変わり者だ。
「はい。まさか打ち合った両者が共同して戦法の検討が為されるとは思いませんでした」
カリソンの言葉を借りて言えばそうなる。たとえケーキを存分に堪能しながらでも、会話の一部だけを抽出すれば正しい表現だ。
「相手に敬意を払い共に高め合う。本来あるべき騎士道の精神だな。コメルシー殿は未来有望な者を相手によくやっていたよ」
先輩の言葉はまっこと正しいけれど、あの気の抜けたスイーツタイムを思い出せばどうも納得がいかない。けれど、おいそれと出来るものではないことは近衛騎士であるポルックスはよく知っている。
「正直言って、烈しい打ち合いの直後にあれほど正確に戦況を思い出せるとは驚きです」
「だろうな。感想戦の相手との試合、勝ち手は何だった?」
「時間いっぱいで勝敗つかずです」
「ほう。コメルシー殿と競り合うとは中々の逸材だな、他家に採用られる前に早々に軍で囲うか。名は判るか?もしくは特徴など」
「妹君です」
「は?」
「話題の副長殿の妹君。例の、マドレーヌ・コメルシー男爵令嬢です」
「はあああ??!」
顎が外れそうなほど大口を開けて驚く先輩に、ああ自分の感覚は間違っていなかった、そうポルックスは安堵した。




