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カザンディビ31歳、夏。~衛生講習会~

 中堅どころの医師を伴い入室すると、ざわめきが一瞬止んだ。

 紺青色に白色、深緑色に混じって少しの橙色、それに片手の指で足りる緋色。色とりどりの軍服は、近衛隊から王国軍第四部隊まで、頭数はともかく各隊から出席者があることを示している。彼らはおおよそ着用する色によって緩やかに分かれて着席していたが、最も大きい一団は、深緑色を筆頭に他部隊の色が混じっていた。その中心に居る男が誰かは、わざわざ確認せずとも判る。



 “褐色の巨人兵(ゴリアテ)”ダダール・グルン。



 “氷鉄の守護神像(ガーゴイル)”ダルドワーズ・コメルシー。




 両人は何を語るでもなく着席して居るが、彼らの放つ圧倒的存在感は、ただ其処に在るだけで場を支配する。その眩い強さに惹かれたか、部隊の違いなど存在しないかのように、各隊の人間が集まっていた。


 精悍な顔つき体つきの男達に、向き合う。無言の圧力と、向き合う。



「王国医務局主席医務官、カザンディビ・スュトラッチです。本件に於ける総括責任者を務めることとなりました」



 *****



「とても有意義な時間でした」


 意外なほど恙無く呆気なく、予定通りに会は終了した。医務官から衛生の基礎知識を教わるのではなく、互いに有用な情報を出し合い質疑応答を繰り返してより良い策を導き出す方式で進行され、思いもよらない問題点が見えた。


「カザンディビ殿は、学院の医師も兼任されて多忙なのではないか?」


「いえ、今は夏季休暇中ですので。それに、このような一大事に職務を放り出した部下の責任は、上役が取らなければなりませんから」


 ダダールの言葉に笑みを浮かべて返せば、中堅医師は気まずそうに俯く。正式な要請を受けたにも関わらず初回で逃げ帰った若手医師は彼の直属の部下で、彼には「うまくやれている」と虚偽の報告をしていた。それが、調べてみれば2回目以降は姿を見せず、代わりに多少なり医薬の心得のある軍人が中心となって対策を講じていたのだ。

 これでは医務局の面目は丸潰れ。激怒した局長が若手医師とその指導役を馘首(くび)にしようとするのを取り成し、若手医師は半月の出仕停止、指導員である中堅医師には「自主的に」一団に随行する旨を申し出させ、そしてカザンディビも責任を取ると言って、()()()()総括責任者の席を手に入れた。


「元気に、やっているようですね」


 誰がとは言わず、ただ、ダルドワーズに視線を向けた。彼の父が治める領地は面積こそ小さいが、スュトラッチ家の正しき血統者が3人も居る。それだけで価値はずっと跳ね上がるだろう。価値が上がれば危険度もそれに比例する。従妹と叔父と弟とが、スュトラッチの価値も知らない愚か者に狙われて、あまつさえ命を落とす事など、あってはならない。


「旧廠舎から『静謐な祈りの館』への修繕は、間もなく終わる見込みだ。出立日の通達は直前になる可能性が高いが、宜しいか?」


 ダルドワーズも重々承知のようで、軽く頷いただけでその話を終わらせた。そうして、より重要だと思われる、今後の予定に話題を変える。後のない中堅医師は、驚いたようだが、ゴクリと唾を飲んで大きく頷いた。


「では、旅程図などは先んじて医務局に提出しておく」


「ああ、そうだ。此度の遠征参加者は、錠前を決して忘れぬように、注意されよ」


「錠前…というと、家や蔵などに掛ける、アレですか?」


 ダルドワーズの言葉を引き継いだダダールの発言に首を傾げたのは、私達ばかりではなかった。少し離れた位置から我々の様子を窺っている軍人達が顔を見合わせているのが、気配で伝わった。



「なに、万に一つの備えだ。使わないに越したことは無いんだがな」



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