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マドレーヌ13歳、秋。~ドキドキ☆秋の漢まつり~

 剣術場は妙な熱気に包まれていた。


「踏み込みが甘い!しっかり大地を捉えろ!次ッ!」


「ありがとうございます!」


「視線を逸らした一瞬が命取りとなる事もある。だが恐怖は悪いことではない。正しく恐れよ」


「はい!」


 乗合馬車などで帰宅時間の早い者からバシバシと軽い打ち合いをし、今後の課題をそれぞれに言い渡す。豪放磊落を絵に描いたようなカリソンと、泰然自若なダルドワーズ。どちらも若者から甲乙つけ難い人気を集めているらしく、2人とも休みなく木剣を振っている。


「尊いわー。はしゃぐマドレーヌ様が尊すぎて心臓が保つ気がしないわー」


「アホみたいに口開けてると涎垂れるぞ」


 もはやマドレーヌが関わればなんでも良いモニカは、まったく興味のない剣術の稽古を見学している。ジョンが引っ張り出してきた木箱にハンカチを敷いて座り、穴が開きそうなほどじっくり凝視する先は勿論、楽しそうに稽古を見学しているマドレーヌだ。


「深緑色の軍服を見た時はイラっとしたけど仕方ないわね」


「そもそもお揃いを希望したの、マドレーヌ様だって言ってたじゃんか」


「何よそれ聞いてないわ」


「ほら前に乗馬服着た時…あぁ、モニカは昇天してたんだっけか。兄上様の制服を見て自分も着たいって、小さい頃におねだりしたんだって。ちょっと恥ずかしそうにしてて可愛かった」


「なッ……何たる不覚ッ!ジョン、その目ちょっとだけ貸して?」


「無理」


「片方だけでいいから!お願い!」


「無茶言うな」


 わちゃわちゃ雑談を繰り広げる幼馴染コンビを他所に、マドレーヌは衝動が抑えられないでウズウズしていた。稽古に混じりたくて挙手したりぴょんぴょん飛び跳ねたり、露骨にアピールしているのだが全て義兄に黙殺されている。


「よし、粗方終わったな。ダル、マドレーヌちゃん」


「はいはーい!」


「…ったく」


 カリソンに名指しされ、喜び勇んで赴くマドレーヌと深く溜息を吐くダルドワーズ。普通なら打ち合いにすらならない兄妹に他の学院生達は生温い眼差しだが、ジョニーだけは息を飲んだ。


「では、コインが下に落ちたら始め。時間はこの香が燃え尽きるまで、延長は無し」


 カリソンは2人にルールを説明すると、地面に棒状の香を突き刺した。白く細い煙がすぅっと一筋、ゆらゆら立ち上り空に消えていく。


「ダル義兄さま、何でもあり(バーリトゥード)?」


「OK、バーリトゥード」


 兄妹は頷き合うとそれぞれ木剣を構える。ダルドワーズは以前マドレーヌも見せたような、頭上に振りかぶる構え。対するマドレーヌは剣先を地面スレスレまで下ろしている。


「妹君とはいえ、やっぱりお嬢様なんだな」

「ああ、剣が重いのだろう」

「ちっちゃくって可愛いなぁ」


「…お前たち、浮ついた心持ちで居ると後悔するぞ」


 好き勝手に言う同期生を制し、ジョニーはどかりと地面に腰を下ろす。一瞬たりとも見逃すわけにはいかない。剣術場に立つ2人の間には静かで和やかな殺気が漂っているのだから。


「なッ――?!」

「速ッ?!!!」


 銀色のコインが地面にトンと着くが早いか、先に動いたのはマドレーヌだ。しかし距離を詰めるでもなく、むしろ距離は保ったままダルドワーズの周りを無軌道に走る。走る。走る。爛々と輝く瞳、口元に浮かぶ不敵な笑み。まるで獲物を見定めた猫のような、或いは抜き身の剣のような、研ぎ澄まされた妖しい輝きにジョニーの魂は一気に引き込まれた。


 しかし、その姿を見られたのも僅かな時間のみ。秋の乾いた空気に土塵(つちぼこり)がもうもうと舞い上がり、折り悪しく太陽も雲の影に隠れ――。


 ヒュッ―――

 カンッ―――


 空気を切り裂く音。木剣の芯を捉えた澄んだ音。少し遅れて、中空をしなやかに舞う(シルエット)が浮かぶ。

 土煙を抜けて軽やかに着地してみせたのはやはりマドレーヌで、剣先が汚れて地面を掻いた跡が見える。それは今、目の前で起こっている全てが決して偶然ではないことを否応なしに突きつけた。ついさっきまで侮っていた学院生達も黙り込み、呼吸も忘れて勝負の行方を見守る。


 ヒュンッ――

 カカッ――


 打ち合う2人に会話はない。ただ木剣が虚空を裂き、しなやかに、或いは力強く、振り下ろされる木剣をいなしていく。よく見ればマドレーヌはダルドワーズと一定の距離を保つことに重きを置き、強く打ち込んだ後は素早く後ろに引いている。


 ヒュッ―――


「両者!打ち合い止め!」


「ええーっ?もう?」


 カリソンの声にマドレーヌは振り下ろす途中の加速した剣をピタリと止めた。見れば香は既に燃え尽き、地面に黒い焦げを作っている。


「続きは家でな」


「やったぁ!約束ね、ダル義兄さま」


 仔犬のようにまだまだ構って欲しがる妹の頭をポンと一つ撫でて、ついつい甘やかす兄。実に微笑ましい光景だ。手中にある木剣や今し方までの激しい打ち合いさえなければ。

 いつものように疲れた素振りもない体力馬鹿兄妹に呆れつつ、カリソンは周囲に向き直る。


「体躯に恵まれた者も居れば、そうでない者も居るだろう。だが、貴君らが今その目で見たように、必要なのは己を知り、己の戦い方を知ることだ。正しき努力は必ず未来を拓く糧となる!我ら第三部隊は、己を磨く者すべてを歓迎しよう!」


「「「「「おおおおおおおお」」」」」

「「「「「兄貴ィィィィイイ」」」」」


 カリソンの言葉に呼応して、剣術場は更に厚くて暑い熱気に包まれた。




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