マドレーヌ13歳、秋。~雑草駆除の準備です~
「きゃあッ?!」
「まさか敵襲か?!ウォルト殿!」
「ああ!お二人は校舎の中へ!」
「方角からすると現場は剣術場。武器の所持不明。馬は無し。人数把握不能、多すぎる」
親友2人とジョニーの機転によって何とか無事にランチまで終えたマドレーヌご一行は、外に出るなり鳴り響いた地鳴りのような怒号に立ち止まった。ちなみに上からモニカ、ジョニー、ジョン、マドレーヌである。
「… ひとまず情報を集めないと。2階の教師室からなら様子が確認できそうですね」
つい癖で状況を分析してしまったが、ここは村ではない。貴族らしい振る舞いを学ぶ王立学院だ。モニカのように悲鳴を上げるのがご令嬢の正しいリアクションだったと気づいた時には後の祭り。気恥ずかしさの余りその場から立ち去ろうとしたその時。
「いやぁ、相変わらず状況把握が早いな。卒業後は第三部隊に来ない?」
「いつの間にッ!?」
「お二人とも下がって我々の後ろに!」
目の前からの声にジョンとジョニーが慌てつつも前に躍り出る。この中で最も実践に長けている感のあるマドレーヌに対してもご令嬢扱いしてくれるのは嬉しい。じんわり感動できる余裕が生まれたのは、それが聞き慣れた声だったからだ。
「ジョン様、ジョニー様。その方は」
「却下だカリソン。妹は軍なんぞには絶対入れん」
少年2人を止めるマドレーヌと男の発言を一刀両断するダルドワーズ。コメルシー兄妹の声が見事に被った。
「義兄の上司のカリソンさんです。えっと第三部隊の…?」
「今は第二小隊の長を任されている。以後お見知り置きを。マドレーヌちゃん、ちょっと会わないうちに随分と女の子らしくなっていて驚いた」
カリソンは30歳を幾つか超えた年頃で、ダルドワーズの悪友兼直属の上司にあたる包容力たっぷりな頼れる兄貴分だ。酔うと奇妙な踊りやナイフ投げを披露したり、おちゃらけた性格だけれど、これがどうして、公の場での堂々たる振る舞いは下手な貴族よりも貴族らしい。
「ジョニー・グッドです!第二小隊のご活躍は常々拝聴しており!小隊長殿並びに副長殿にお会いできて光栄であります!」
軍人を目指すジョニーは突然現れた男2人にキラキラ瞳を輝かせているし、追いかけて来たらしい男ばかりの群衆も熱い眼差しを向けている。さては先程の怒号はコイツらの大歓声だったか、武人にさほど興味のない残り3人はコソコソ話し合った。
「カリソンさん、制服じゃないってことは非番だったんですよね。すみませんお休みのところ」
「ダルから話を聞いて軍としても看過できないと判断した。だからマドレーヌちゃんが謝ることじゃない。今日はそうだな、事前準備といったところかな」
カリソンとマドレーヌの会話で看過できない事柄が何かを察したのか、ジョニーを始め男子学院生達はカチリと身を硬らせ、それを見たジョンもモニカも納得の表情を浮かべる。第四騎士団の横暴は剣術の訓練をしない者達にも周知の事実のようだ。
「ここらでネトルの駆除をしておかねばな。良質な環境づくりも役職者の職務だ」
ダルドワーズの言うネトルとは繁殖力が強い雑草のことだ。全体が棘で覆われて触ると鋭い痛みに加え、人によっては蕁麻疹のような症状も出る厄介者。定期的に駆除しないと範囲が広がり、他の作物の生育を阻害したり、病害虫の温床になったりもする。ちなみに確実に駆除するためには根ごと枯らす必要がある。
「というわけで。今日は我々2人が稽古をつけてやろう。志願者は剣術場へ集え!」
「「「「「うぉぉぉぉおおお」」」」」
カリソンが声高らかに木剣を掲げた瞬間、熱くて野太い声が学院の一角に轟いた。




