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マドレーヌ13歳、秋。~脳筋イケメンの面目躍如?~

「先日マドレーヌ様から頂いた軟膏はとても効き目が良くて驚きました。お陰様で痛みも随分と引きましたよ」


「それはよかったです。痛みを我慢してると、筋肉が緊張して余計に痛みが増しますから」


「ジョン。マドレーヌ様がいくらお優しいからって調子に乗ってまた怪我でもしたら、すっかり呆れられてよ?」


「しかと肝に銘じます。あ、使用感のレポートは今まとめておりますので早々に」


 必要なものを持ってくる、と王都に帰った義兄と一旦別れたマドレーヌ達3人は、ガヤガヤと騒々しい(さえず)りに耳を傾けることも好奇の目に注意を向けることもなく、教室でのんびり世間話に興じていた。

 これは学院内で絶賛拡散中のマドレーヌと義兄に関する噂については一切応える気がない、という意思表示だ。何の準備もないまま弁明することは(いたずら)に噂を長引かせかねない、というモニカとジョンの判断に従ったもので、それとなく周囲の様子を窺えばウズウズしながら隙をみて話しかけようとする者ばかり。2人がいて助かったとほっと胸を撫で下ろし――


「噂は事実ですかッ?!」


 大声で暗黙の了解を乱すは安定の脳筋男、ジョニー。今日はご丁寧にファンの女学院生も引き連れてやってきた。否、マドレーヌを見る女性陣の胡乱な目つきから察するに、彼女たちの主導でジョニーがやってきたようだ。性格があんなんでも顔は美形(イケメン)だからファンも多かろう。今回の噂を醜聞として彼に告げたのだと容易に想像がつく。


「ジョニー様、わたくし見ましたもの。あの方は貴方の思っているような女性では――」


「では本当にッ!本当なのですね?!貴女が――コメルシー様だなんてッ!」


 不愉快そうな女学院生の言葉を遮って、わなわな震えるジョニー。いつもより遥かに異常な様子に半歩だけ前に進み出てマドレーヌやモニカを隠してくれたジョンの背中が勇者に見える。ついでに、


 ▶︎たたかう

  にげる

  ぼうぎょ


 脳内にそんなコマンドが浮かんだが、ここは教室。派手に戦う場も逃げ場もない。残るは防御だ。攻撃は最大の防御なり、と思い至り、ぎゅっとペンを握り締めて相手の頸動脈の位置を確認する。そして今いる場所からの最短ルートを選択。よし、いける。マドレーヌは気づかれないよう戦闘体勢に移行した。


「『氷鉄の怪物像(ガーゴイル)』の妹君とは露ほども知らず!失敬千万の振る舞いの数々、ここに改めて謝罪致します!!」


「ひょう?……え?え?なんて?」


 教室内の隅々まで届く大声でかっちり90度まで深々と頭を下げたジョニーに彼を取り巻く女学院生もが呆気に取られ、ポカンと口を開けたまま動かない。


「辺境の守護神と名高い御方です!我が領も兄君のお力によって蛮族の脅威から救われたのです!」


「あー、ご領地は西の国境近くでしたか。その節は新鮮なミルクとチーズを差し入れて下さったそうで、義兄(あに)もたいそう喜んでおりました。よく手と目が行き届いた健やかな牛でなければ出せない味わいだったと聞いております」


 頭を下げられたらつい下げ返す日本人気質を持って生まれたマドレーヌはぺこっと頭を下げながら、遠征から帰る度に義兄に強請(ねだ)ってきた土産話を慌てて引っ張り出した。

 王国で蛮族というと、西方の草原地帯に暮らす騎馬民族集団を指すらしい。彼らは遊牧生活で培われた軍事力をもって王国の西方の村々にたびたび侵攻していたのだが、義兄らの西地区駐留から数年間は沈黙を保っている。


「そうですか!そう仰って頂けたとは農牧に従事する領民の励みになります。

 そういえば、兄君は本日どのような御用向きで?」


 おや?とマドレーヌは思った。いつもの猪突猛進ではなく、思慮深さを感じさせる落ち着いた声音。安心しろと告げるような意志の強い眼差し。


「義兄が遠征から帰り、学院長へのご挨拶と意欲ある学院生へ剣術の指南をしたいと申しまして。ご許可いただき、本日の放課後から希望者が居りましたら指南するそうです」


「なんと!現役最()と謳われる兄君に稽古をつけて頂けるとは軍人を目指す者にとってこれ以上の喜びはありますまい。私の友人にも知らしめなければ。

 ――彼女たちはダルドワーズ・コメルシー殿が私の憧れであると知り、貴女様がその妹君であると気づいて親切にもお知らせくださったようなのです。まさか身近に彼の方と(えにし)の深い方がいらしたとは」


 なるほど、マドレーヌは得心した。剣術のことでは熱くなりすぎる性質(タチ)だが、ジョニーとて生まれ付きの貴族には違いない。周囲の女学院生を牽制しながら場を収めるよう、ついでに妙な噂も打ち消すよう取り計らってくれるようだ。


「わたしも義兄から人々の善良さ、仕事に対する実直さを聞き、西方の村に憧れを抱いておりました。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。マドレーヌ・コメルシーと申します」


「ジョニー・グッドです、コメルシー様。大恩ある御方の妹君とあらば、喩えこの身が滅び朽ち果てようともお守りする所存であります」


 やっぱり脳筋男は安定の脳筋男だったかー。

 女性陣の刺すような視線を感じながら、マドレーヌは白い歯を見せて笑うジョニーを半眼で睨みつけた。

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