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マドレーヌ13歳、秋。~大ごとになってます?~

「誠にお目汚しではございますが、ご査収の程、宜しくお願い申し上げます」


 マドレーヌは深々と頭を下げて紙の束をずいっと差し出した。表紙には『学院生による文化展示発表会の実施に係る提言』とあり、現状分析、イベントの目的、具体的な内容、スケジュール、収支計画からなる学園祭の企画書だ。

 グラフやイラストも加えて読みやすさを心がけたせいで休日をまるまる潰した企画書は、我ながら良き出来ではないか。時折頭の中で「社畜」の文字が踊ったが。


「これはご丁寧に。謹んで拝見します」


 そしてそれを手に取ったのは、1ヶ月ほど前に会ったぽっちゃりさん、ナウル・デライト伯爵。


 ――なんでこんなことに――


 朝イチで教務課に提出したところ学院長室に回され、放課後来る様に言付かった。そうしたら異母弟の件で来院していた彼とバッチリ遭遇。出直そうとしたがとっ捕まって企画書を見せろと脅さ…お願いされた。

 よりにもよって王国の頭脳と称されるデライト伯爵に見せる羽目になるとはツイてない。マドレーヌはバレないように溜息を吐いた。


「成る程。寄付予想リストにある顔触れからするに、教育や文化振興の名目で支援を募る積りだね?けれどデイロ氏は?」


「ご息女にファッションショーへの出演を打診しようと考えております。そちらのイベント概要にあります通り、大多数の前で堂々と振る舞える胆力が必要ですから適任かと。お父上には、彼女の晴れ舞台を見るに相応しい人物をご招待頂けるかと存じます」


 ぶっちゃけスポンサー枠だけれど、ブリガ・デイロは目立つのが好きそうだから大トリも適任だろう。だから寄付も色をつけてお願いね、パパ。


「そのショーは、男女とも古着を手直しするとあるね」


「ご婦人も殿方も、流行が過ぎてしまい退蔵となった衣装が多くあると聞きます。職人が丹精込めた素晴らしい一着が若者の未来を作る手助けとなるならば、ご寄付くださる方も多いかと愚考した次第です」


 女学院生たちがピンクの服を小物にリメイクしていることから着想を得たもので、イチから作るより遥かに安上がりだし豪華なものになるだろう。


「模擬店というのは?」


「商いの実践演習、兼、各領の特産品のデモンストレーションとお考えいただければ。仕入れルートの構築や販売価格の設定、利益率の計算など、今後に繋がる学びを得られます」


 真剣な眼差しで企画書に目を通すと、デライト伯爵は幾つかの質問を投げかけてきた。今世では初めて味わうプレゼンの緊張感。とりあえず答えられない質問がなかったことにほっと胸を撫で下ろす。


「…驚いたな。本当に君が全て書いたようだね。正直、これほど出来のいい資料を私は知らない」


「恐悦至極に存じます」


 デライト伯爵は椅子の背もたれにゆったり身を預ける。優秀なる施政者らしい貫禄や威厳を示すように。


「王宮に持ち帰り、これを基に予算編成に入る。前例のない全く新しい試みだが国にとって理も利もあるものだ。反対は出まいよ」


「ぴァ?」


 いきなり国を動かす事態となったことにマドレーヌの口から妙な音が漏れる。王立学院だからそもそも運営費の出元は国庫なのだろうけれど、活動費として少し回してくれないかな〜?程度の軽い気持ちで始め、ドーパミンどばどばの社畜ハイで仕上げた企画が偉い人達の協議も経ずに現場でサクッと採用されようとしている。いや、目の前に居る人こそがお偉いさんではあるけれど。


「イエイエ!あの、お恥ずかしながら見通しが甘いところもありまして。ここは一度持ち帰って皆様でじっくりご検討頂いてですね」


 プレゼンした側が採用に難色を示して持ち帰りを要求する謎事態。けれども大金が絡む事柄をものの数分のやり取りで決めて良いものではない。


「この程度の予算なら議会を通すまでもない。国から予算が下りたとなれば支援者からの資金調達もスムーズに進むだろう?」


「それは…その通りです」


「では、最速で企画を通すから楽しみにしていておくれ」


 デライト伯爵のいい笑顔に、マドレーヌは引き攣った笑いで応えるより術はなかった。


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