マドレーヌ13歳、秋。~それぞれの週末~
白のキュロットにリボンタイ付きのシャツ。深緑色のテールコートをエレガントに着こなし、ピンク色の髪を一本に結えて流す姿は凛々しくも可憐。
しかし、ひとたび剣を構えれば相手を圧倒する気迫に満ちて、粗暴な男を怯むことなく待ち受けて容易く去なす。
マドレーヌの英姿が脳裏に焼き付いて離れない。少女は熱を孕んだ頬に両の手を当て、キャンバスに木炭を踊らせた。
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「踏み込みが甘い!もっと素早く!!」
「まだまだッ!」
ジョンは姿勢を低くして男に挑みかかるも腰を掴まれ床に倒された。これで何度目か知れないが目には闘志が燃え、幾度も幾度も立ち上がる。
「今日は意気込みが違うな。どうした?」
「もっともっと強くならなきゃいけなくなったんで」
手や足の皮が剥けて指の付け根に血豆もできた。けれどジョンは止まらない。立ち止まってはいられない。本物を目の当たりにできたのだから。
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淡いスモーキーピンクに黒いレースを重ねたワンピースを着た籐のトルソーが目に入る。
「ほんとうに、わたくしが着ていいのかしら…」
マドレーヌの色味に近いものを纏いたい一心と、娘に華やかな色を纏わせたい義母の勧めに後押しされて選んだ一着が出来上がってきた。けれど、これまでベージュだのグレーだの地味な色柄ばかり身につけて来たために未だ踏ん切りがつかない。それほどまで、モニカにとって華やかな色味の服はとても勇気が要るものだった。
『あんな地味で暗い女が婚約者だなんてついてない』
『子爵位を継げるのでなかったら添おうなんて物好きがいるはずないだろ』
『いつも見下してきて気分が悪い。愛人の一人もいなけりゃやってらんないさ』
元婚約者の言葉が蘇る。
同じ子爵家の次男で、3歳年上だった。実父の出奔によって10歳で解消されたものの、それまでの2年間は会えば罵られるか無視されるかで、最後の頃にはすっぽかされることも多くなった。貴族の義務を頭では理解していたが、理不尽な扱いに納得できるほど大人ではない。柔らかな幼い心に刻まれた悲しみの痕が疼く。
「いいえ、着るのよ。あの方のお隣に並べるように」
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「お義兄さまが帰っていらっしゃるの?!」
趣味と実益を兼ねた遠乗りから戻ったマドレーヌは男爵からの報せに思わず大きな声を上げた。
14歳上の義兄は軍人の道に進み、半年ほど前から東の国境を守る砦に駐留している。剣術の兄弟子にも当たるので義兄妹になる前から仲が良い。
「任務地が変更になるらしい。来月中には王都に着くそうだ。手紙には『豆パンと温かなスープを所望したく』『できれば干し肉や干し菜の類は控えめに』『叶うなら果実入りのバターケーキも食べたい。酒はもう飽きた』ともあるな、仕方のない奴だ」
筆不精な義兄にしては手紙の枚数が多いなと思ったら、食事の要望がツラツラ書いてあるらしい。東の砦は川からも遠く離れた荒野にあると聞くから、随分と食事で苦労しているようだ。
「あらあら、ほんとうに食い意地が張ってるんだから。マドレーヌ、ケーキをお願いしても良いかしら?」
「任せて!今日はジュジュべが採れましたから後で陰干ししておきます」
今日の遠乗りという名の薬草収穫は大成功だった。その成果品の一つであるジュジュべは楕円形をした赤い果実で、そのままでも干しても、煮出してお茶にしてもおいしい。弱った胃腸にも効くので食傷気味の義兄には丁度良いだろう。
「のんびり過ごす休日は最高ね〜」
多方面に影響を与えているとは露ほども思わず、マドレーヌはにこにこ顔で紅茶をすすった。




