マドレーヌ13歳、秋。~健全な肉体に宿るのが健全な精神とは限りません〜
警ら隊へのお礼を済ませて時間を持て余したマドレーヌは歩きながらううむ、と思案する。図書館に行こうか、中庭の東屋で一眠りしようか。校舎前で悩むマドレーヌの後ろからザザザと小走りの足音が近づく。
「今日は最前列取れそうよ!」
「本当?なら、もしかしたら受け取っていただけるかもしれないわ!」
2人の少女は弾んだ声でそう言いながら校舎の脇へ入っていく。1人は蔓を編んだ大きなバスケット、1人はハンカチらしきものを手に。
「あー、そういう」
校舎脇を抜けると運動場のように整地された空間がある。男子学院生はここで剣技の実習を行ったり空き時間に自主的に訓練するらしい。必須ではないけれど、講師役は騎士団員が務めるし見学人も男女の別なくいるので、今後の婚活や就活に有利になると人気の科目だ。わざわざ見学し易い場所で行うのもそのためだろう。
冷やかしに足を向けてみれば、お目当ての自主練習を見に朝早くから通い詰めているのは彼女たちだけではないようで、耳を澄ませばキャアキャア賑やかな声がする。
「すごい人集りねー。たしかにこれじゃ、差し入れも渡せなそうだわ」
校舎の影から隠れて見れば、授業前だというのに元気に木剣を振っているだろう少年たちの様子は音しか判らず、それぞれの本命の名を呼び歓声を送る少女たちの分厚い防壁が形成されている。その熱量の高さは見ているだけでお腹が空いてしまいそうで、マドレーヌはエネルギー温存のため中庭の東屋で暇を潰すことに決めた。
「――痛ッ!」
「「「「きゃぁぁぁ!!」」」」
ドサリ重いものが放られた音と幾つもの甲高い悲鳴が重なった。振り返ってみれば少女たちは手を取り合って震え、或いは不規則な足音をたてて剣術場の隅に逃げている。その眼差しの中心、尻餅をつく少年と怒りも露わにする男。マドレーヌは無意識のうちに右手で小石を掴んだ。
「浮かれ切ったその性根、叩き直してやる!」
「「「「きゃぁぁぁ!!」」」」
――叩き直すべき性根はアンタの方でしょうよ――
男が少年を打擲しようと大きく振り上げられた木剣はしかし、鋒に強い衝撃を受けた反動で手から離れ、カランと乾いた音と共に地面に落ちる。
「先生!早く!こっちです!!」
物陰からマドレーヌが声を張り上げると男は忌々しげに少年を睨め付けた後、ふん、と鼻を鳴らして剣技場を去った。黒い制服の胸元、藍地に金のラインが1本入った徽章がキラリと光る。
男の気配が完全に消えた剣術場はシンと静まり返り、やがて目を覚ましたように段々と騒めいていく。皆が少年を案じて集まるその隙に、マドレーヌは今度こそ中庭に向かった。




