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マドレーヌ13歳、秋。~ホウレンソウは大切です~

 慣れない環境に置かれた人間に大切なのは「ホウレンソウ」である。


 報告・連絡・相談



 今回の場合は、平たく言えば、公爵家のお子様との諸々を家長に報告して今後を丸投げする算段である。



 帰宅したマドレーヌは夕食前に養父と面会の約束(アポイントメント)を取り付けた。コメルシー男爵家では夕食後の団欒タイムに今日あったアレコレをネタにおしゃべりするのだが、今日の不慮の出来事(アクシデント)は少しばかり強過ぎる。


「お養父様、マドレーヌです」


 侍女の案内で通された私室では養父が机に座って手紙をじっくり読み耽っていた。頭痛がするのか、時折、眉間を指で押さえている。その様子から余り好ましく内容ではないことが察せられた。


「ああ。待たせて済まないね、マドレーヌ。話があるんだったか」


「はい。

 本日、アクシデントがあって、ルリジューズ・キエフルシ様が野犬に襲われているのをお助けしました。

 緊急事態で非公式の場ではありますが、ルリジューズ様に名乗りを求めてしまいました。その後わたしも名乗りましたが、その点は申し開きの余地もありません。

 その後、同じく現場処理をした学院警ら隊員の方などと学院長室での事情聴取に応じ、事故当時の状況について学院長先生にご納得いただきました。

 キエフルシ公爵家の方がいらっしゃる前に退出しましたが、ルリジューズ様が『また会える?』と仰るので『お父上の許可が出たら』と返答しました」


 感情的にならず、淡々と、事実だけを述べる。

 非のある部分は先に謝罪する。

 王立学院から最寄りの停留所まで、三刻もの間みっちり整理して発言内容をシミュレーションしてきた成果は出せたはずだ。

 男爵はマドレーヌの言葉をうんうんと頷きながら聞き、やがて沈黙した。


「……」


「……」


 奇妙な静けさが場を支配する。


「…えっと、他には?」


「?…そういえば王子殿下の婚約者様がキエフルシ公爵家のご令嬢だって話の流れで聞いちゃいました。これってまだ非公表ですよね?」


「ああ。でも公然の秘密で、内定したことは情報通なら平民でも知っているから問題ないよ」


「そうなんですね。あ、ルリジューズくんと勝手に約束しちゃったのも問題でしたか?あの子、行動力があるので断ったらまた何か仕出かしても困るし、公爵家のご嫡男とそのご子息ならわたしに構う暇なんてないだろうって思ったんですけど…」


「あー、そうだね。まぁ下手に断ってもね。公爵家だしね」


 男爵の手は知らずのうちに机に伏せた手紙を探す。ここにしっかり記されている、もう一つの事項がマドレーヌの口から全く出てこないことに焦立ちながら。


「あー、よかったぁ!わたしの話はこれで全部終わりです。じゃあお養父様、また夕食で!」


「あ、ああ、うん」


 パタン、と扉がしっかり閉まったのを確認して男爵は手紙を読み返す。男爵の頭をぎゅうぎゅうに締め付けた、問題の一節はたしかにはっきり書かれている。


 ―中庭の東屋にて語学教師のフルン・スュトラッチと四半刻ほど談笑。会話の内容は聞き取れず。ただしフルン・スュトラッチはご息女に対して親愛の情を抱いている模様―


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