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マドレーヌ13歳、秋。~わたしがヒロイン~

「ついにここまで来たわー!」


 鮮やかな桃色の髪を風になびかせ、マドレーヌ・コメルシーは威圧的なほど堅牢な石壁を見上げた。王都から乗合馬車で三刻。城塞都市であった旧王都を丸ごと活用した王立学院でマドレーヌは唯一無二のヒロインとなり平凡な人生が一変する!はずだ。たぶん。きっと。


 マドレーヌには幼い頃から、王国(ここ)ではないどこか別な土地で暮らしていた記憶がある。そして愛らしい女の子が高貴な男達に囲まれて幸せになる物語を、高慢ちきな貴族の女が破滅する物語を、朧気(おぼろげ)ながら覚えている。その舞台はほとんど決まっており、同じ年頃の少年少女が集められた場所。そう、王国でいえば王立学院だ。


 マドレーヌはド田舎の肉屋の娘だったが、平凡な故郷には似つかわしくない華やかな容姿で生まれた。人混みでも目立つピンク色の髪と(すみれ)色の大きな瞳は人々の目を惹きつけ、快活な性格も相まって肉屋の看板娘として売り上げに貢献。特に男達は勝手にあれやこれや買ってくれたし様々に便宜を図ってくれた。


 そして商人上がりの新興貴族コメルシー男爵の養女に迎えられたのが13歳の春。それから付け焼き刃ながら貴族令嬢らしい振る舞い-超初級編-を叩き込まれ、なんとか人前に出ても良いとなったのが、夏を越えて秋の始まったあたり。そうして社交界デビュー(貴族の仲間入り)に向けて学問や礼法を学び顔を売るために本日、()えある王立学院への入学を果たしたのだ!


 社交界デビュー後は成人と見做(みな)されるので、下手な失敗は貴族生命の終わりだそうだ。でも逆に、デビュー前ならある程度は許されるんじゃない?王立学院は売り出し前の優良物件の宝庫だ。この機会を逃す手はない。

 そう思えば勉強にも身が入るというものだ。不純な動機だけれど半年という短期間で最低限の知識とマナーを身につけられたのだから具体的な目標って大切だ。



「さすがに初っ端から王子様は無理よねー」


 マドレーヌの2歳年上にはこの国の、たった一人の王子様が居る。王都に来たばかりの頃に1度だけ、何かの式典で遠目に姿をみたことがあるが、きらきら輝く金髪の、白を基調とした式服も凛々しい、たぶん美少年なんだろう。遠目からしか見られなかったので顔立ちまではわからないが、王子様なんだからカッコいい筈だ。


 王子様もこの秋から王立学院に通うと聞いている。同級生や先輩に王族というのも物語のど定番で、マドレーヌに自身が物語のヒロインだという確信を深めさせた。

 男爵は将来的に勢いのある新興貴族や裕福な商人あたりに縁づくことを希望しているようだが、相手が王子なら愛妾?側妃??どうせなら夢はでっかく!目指せ王妃♪



 とはいえ、いくら人生前向き(ポジティブシンキング)が信条のマドレーヌでも何処の馬の骨ともつかない平民上がりの男爵令嬢が気軽に王族に近づけるとは思っていない。むしろ気軽に近づけてしまうほどザルな警備なら暗殺も色仕掛け(ハニートラップ)もし放題だ。いち国民として逆に怖い。


「よっしゃー!まずは手近なところから攻めるとしますかッ!」


 マドレーヌは意気揚々と学舎門を潜った。



 *****


「いや無理でしょどう考えても」



 マドレーヌの野望の(ほむら)は学院初日の入学説明会(オリエンテーション)で少し、いや、だいぶ萎れた。


 王立学院は大きく分けて“学舎エリア”とその外側に広がる“学院街”からなる。学舎エリアは旧王都内の、これまた高い石壁と内門で街と隔てられた旧王城を活用したもので、その当時から防衛上の理由で幾つかの区域に分かれていた。日本の城でいうところの“曲輪(くるわ)”に近い。


 マドレーヌが通うのは基礎的な教養に加え、挨拶や礼の仕方、言葉遣い、食事のマナー、会話の振り方、手紙の書き方といった日常的なものから冠婚葬祭、他家を訪問する際のルールなど、貴族にとって基本的な行儀作法を一通り学ぶ基礎科(ビギナーコース)。校舎は内門から一番近く、敷地も最も広い、中央区(セントラル)と呼ばれる区域にある。こちらは生徒数が多く男女同じ校舎、いわゆる共学だ。



 対して高位貴族や裕福な平民(マドレーヌの獲物)が居るのは全寮制の習得科(マスターコース)

 社交界デビュー済の、およそ15歳から17歳までの主だった貴族や大富豪の子息令嬢、将来有望な特待生が在籍し、冬と夏の長期休暇以外は基本的に寮生活を送る。もちろん男女で区域がしっかり分かれており、男は東区域(イースト・サイド)、女は西区域(ウェスト・サイド)に学舎や寮といった居住生活スペースがある。


東、西、中央とも区域と区域の間には深い空壕が掘られている。中央区を頂点に東西方向に二等辺三角形を描くように配置されており、各習得科は跳ね橋を通って中央区に至り、そこから学院街に出る仕組みだ。原則、定時以外に跳ね橋が下りることはなく、寮生以外の通行には肉親と言えど特別な許可証が必要らしい。



 つまりマドレーヌの手の届く範囲にいるのは、家庭教師も雇えない貴族家の子息、新たに爵位を賜る予定の平民、王城勤務志望でマナーを身につけたい平民で、どこをどう辿っても王子様まで辿り着く気がしない。


 しかもビギナーコースで学べるのは最短で半年、最長でも2年間と定められている。期限が設けられているのは、貴族として基本的な振る舞いが身につかない者は早々に別の道を捜して進むべき、というある種の温情でもある。が、マドレーヌにとっては余計なお世話といわずにおれない。なにしろ将来有望なエリートは半年で学院を去ってしまうのだ。



「街なかで偶然出会うってのも定番だけど…ここじゃあ無理だわね」



 定番イベントの一つ『おしゃれなカフェや雑貨店が軒を連ねる街で運命的な出会い♡』


 しかし、王立学院のシステムでは、そんな可能性に賭けたところで徒労に終わることだろう。なにせビギナーコースの学院生がいる時間帯は東西とも跳ね橋が上がっていてマスターコースの学院生は街に降りられないし、マスターコースの授業終了を待っていては帰りの乗合馬車に間に合わない。ビギナー生には働きながら修学する者もいるから授業の終了時間が早く、マスター生は寮生活だから多少遅くても問題ない。



 うまく出来た仕組みだ。マドレーヌは思わず感心した。

 そりゃそうか。王立学院は各家が手塩にかけて育てた社交界デビュー直後の子息令嬢(高額優良物件)に悪い虫がつかないよう隔離する目的もあるに違いない。冤罪でも事実でも醜聞(スキャンダル)を起こして無理矢理に縁を繋ごうとする者は、男でも女でもいるものだ。


「ま、とりあえず明日っからの学院生活でこの世界(久しぶり)の学生生活のカンを掴むとしますかッ!」


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