マドレーヌ13歳、冬。~冬至祭の祝祭〜
ポルックスは今、とても愉快な心地良さを感じている。
否、ポルックスだけではない。都会から来た人々も元よりこの村に居る人々も、魂が体から抜け出たような奇妙な浮遊感に浸っていた。
今日は冬至祭。踊りによって地上に祝祭が齎される日。
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「スヴァさん、ぼくの運命の女神。マディ、ぼくの輝く天使」
「“ああヘルギ、今日はとても気分が良いの。心から愛してるわ”」
神住む世界から飛び出した女神と天使は『祝祭の踊り』を終えてもまだ憂世に留まるようだ。女神は愛する夫を熱い抱擁と口付けでもって迎え、天使はうつらうつらしながら父にぺたりと張り付き頬に軽くキスをする。
母娘は大きな一枚の布を体に巻きつける、古代ギリシャの女神にも似た独特な衣装に身を包み。首元には襟状に広がった幅の広いネックレスが弱々しい冬の光を受けて、さながら太陽だと言わんばかりに金色に輝く。
母はさらに太陽と燃え盛る炎を模した精緻な細工を施した金冠も被っている。中心におさまる紅玉は色も大きさも一級品と知れるが、誰も注視する者はない。
「スヴァさんが少し飲み過ぎたせいで来るのが早い。マディは俺が預かるから、母さんも早く着いていってくれ」
眠そうな義妹を腕の中に収めるダルドワーズも今日は鍛え上げられた上半身を重厚な金の装飾品で飾り立てられ、踊りのせいで冬空の下でも薄らと汗ばんですらいる。
「だるにぃ?ぽるみえおじさんは?」
舌足らずな話し方で己を呼ぶ養娘にポルミエは慌てて駆け寄り顔を覗き込む。
「ここに居るぞマドレーヌ。よし、俺が運ぼう。ダルは先に着替えを」
「任せた。今年はどうも、両方に来そうだな」
『祝祭の踊り』は神降ろしの儀式。
本来は戦乙女の血を引く女性に神を降ろして神託を得るために行われるもので、今、観客たちは神威の余波でもって一時的なトランス状態に陥っている。この隙に神が降りた2人を安全な場所に運ぶのがコメルシー家の最大の任務だ。そして次の任務が神の言葉を聞き、漏らすことなく書き記すこと。
「ぽるみえおじさん」
「ここに」
「かわいたちにあめがふってそらをくろがおおう」
「だいちをまるはだかにするまでわざわいはやまない」