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マドレーヌ13歳、秋。~波乱のランチタイム〜

「うっわぁ、やっぱり食堂は混んでるのねぇー」


「昨日はもっとスムーズに入場できたわよねぇ、ジョン?」


「はい。それに今日はなんだか女学院生が入口に密集して進んでいないようですね?」


 素数を数えたことで冷静さを取り戻し、恙無(つつがな)く授業を終えた後はテーブルマナーの講義を兼ねたランチタイムが待っている。

 さすがに2時間も3時間もかかる正式なフルコースではなく、前菜・スープ・メイン・デザート・コーヒーと小菓子、という略式なものだが、マスターコースと同じ一流の料理人やその愛弟子が手がけるとあって、参加しない者の方が少ない。


 ランチの会場となる食堂は入学説明会後、全学院生参加の立食パーティが行われた場所でもある。見る限り500人は下らないだろうビギナーコースの全学院生と教員、来賓らが軽食片手に悠々と移動できるほどだだっ広いので座る席がないという事態は考えにくい。となると、入場できない理由でもあるのか。


 その答えは、マドレーヌ達がやっと食堂の入口まで辿り着いた時に判明した。



「コメルシーさん」


「スュトラッチ先生、ご機嫌よう」


 3人分の席を確保しようとキョロキョロ見回していたマドレーヌに声をかけたのは、ゆるくうねる金色の髪に黒縁眼鏡をかけた男、フルン・スュトラッチ。マドレーヌとモニカが出会うきっかけになった騒動で兵士を連れてきてくれた、語学の担当教員だ。

 食堂は入場順に詰めて座ることになる。この混雑は入口から近い席に陣取る彼の側に座りたいがために生じたものらしい。女学院生陣から獲物を狙う猛禽類の如く静かな殺気が(ほとばし)っている。



「君は昨日の講義(ランチ)に出ていなかったから教員(ぼく)の隣に座ってくれるかい?コシチェさん、ウォルトさんは問題ないけれど、良かったら一緒に」


 言われてチラリと確認すれば、各教員の周囲は緊張する少年少女で固められている。なるほど昨日のランチでテーブルマナーが覚束ない学院生の目星をつける段取りだったようだ。例の騒動で食べ損ねたマドレーヌを除いては。


「はい、スュトラッチ先生のお隣で学ばせていただけますこと光栄です」


「わたくしたちも是非ご一緒させていただきたく存じます」


 スュトラッチ先生は20代だろう、教師陣の中では最若手な上に王立学院教師(エリート公務員)という肩書きも相まって女学院生からの人気が高いようだ。語学の担当教師は他にも数人いるけれど、スュトラッチ先生の担当日には立ち席も出るほどと噂に聞いている。



「…… スュトラッチ先生のお隣だなんて後が怖いわ」


「現に今も私達に槍のような視線が寄せられていますね…」


「今からでも何処か他の先生のお席に空きはないものかしら」


「完全に出遅れましたからね、前方の先生方の周囲は満席です」


 ランチは全教員が参加するわけではないようで、ずらりと幾列も並んだどのテーブルにも昨日の算術の教師の姿はない。入口付近に漂う不穏な空気から察するにスュトラッチ先生が参加するのは滅多にないのかも知れない。


「まぁまぁ、今日でお墨付きをいただければ明日からは自由の身ですわよ」


「それができれば苦労は致しませんわよぉ、モニカ様ぁ」


「今日の出来事だけで充分、取って食われそうな勢いです。マドレーヌ様、決して細い道や夜道を歩いてはいけませんよ」


 不承不承といった表情と気配を隠そうともせず着席する女学院生の鋭い視線に()てられてげんなりするマドレーヌとジョンを宥めるモニカ。女性に大人気のスュトラッチ先生も3人にとっては厄介ごとでしかない。

 すぐ隣で繰り広げられ、聞き耳を立てずとも丸聞こえなヒソヒソ話にスュトラッチ先生が苦笑を浮かべているところに、まずは前菜が運ばれてくる。


 いざ、ランチタイムの始まりだ。

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