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マドレーヌ14歳、秋。~婚約破棄は突然に~

あけましておめでとうございます。

今回も1日1話、毎日20時に更新予定です。よしなに。

「クレマ・カタラーナ!伯爵家という身分を嵩に着て幼気(いたいけ)なマドレーヌを甚振(いたぶ)るお前の性根にもう我慢がならない!私は誇り高きターキッシュ・デライトの名に於いてお前との婚約をここに破棄する!」



 心地よく晴れた秋空が広がる午後。美しく整えられた庭園に肩を怒らせて乱入した男は大袈裟なほど大きな身振りで人差し指をビシリと一人の少女に突きつけて自慢のテノール・ヴォイスを響かせた。

 先程まで和やかに進行していたお茶会は闖入者(ちんにゅうしゃ)によって水を打ったようにシンと静まり返る。それを好機と見たか、男は


「そして真実の愛の使者マドレーヌ・コメルシー男爵令嬢を新たな婚約者とする!」



 と続けて叫び、庭園の芝生に片足をついて跪き叫んだ。


 明るい太陽の下、男が(まと)う光沢あるピンク色の服は眼にも痛いほどで、彼の黄色がかった薄茶色の髪にも琥珀色の瞳にも似合っていないが、熱っぽい視線を向ける先には服の色味に近い、ローズピンクの髪の少女。若草色のドレスがよく似合う愛らしい顔立ちに可憐な雰囲気の14歳の少女こそがマドレーヌ・コメルシーである。



「さぁ愛しいマドレーヌ!私とともにこれからの人生を歩んでくれはしまいか!」



 名指しされ愛を告げられ。鋭い視線こそ浴びてはいないが、周囲(みんな)がマドレーヌの一挙手一投足、一言一句に注視していることはヒシヒシと感じる。そこに媚びりつく好奇心にも。


 1年半前に地方の平民から貴族の仲間入りをしたばかりのマドレーヌ・コメルシーに、この場で最も地位の低い少女に、選択肢などない。マドレーヌは意を決してターキッシュと名乗る男の元に歩み寄り、ドレスの裾をそっと持ち上げて片方の足を後ろに引いて少し屈んだ。ぎこちないお辞儀(カーテシー)と口許だけの笑みを向けられた男は喜色満面でそれを迎える。


「デライト侯爵家御三男、ターキッシュ・デライト様のお呼びと聞き、コメルシー男爵家のマドレーヌがご挨拶申し上げます」


「あぁ!愛しのマドレーヌ!我らの間でそのような他人行儀な振る舞いは無用だ!君の想いはわかっている。想いの丈を私に告げてほしい」


「かしこまりました。そのように。侯爵家のご子息のお言葉ですもの、わたくしに(いな)はございません」


 鼻息も荒く前のめりなターキッシュに、マドレーヌはほんのり顔を赤らめ、すぅ〜ッと微かな長音を立てて息を吸い込んだ。そうしてシャンと背を伸ばした刹那、ストンと表情が抜け落ち――




「さっきから大人しく聞いてりゃ好き勝手言いやがって!ちったぁ場ァ弁えろよお花畑野郎が!目ぇかっ開いたまま寝言言ってんじゃねえぞこら 」




「はっ?!へっ??あの、マドレーヌ?」


 先ほどまで深窓のご令嬢に相応しい微笑を浮かべていたはずのマドレーヌが憤怒の形相と暴言で男に迫る。うら若き乙女の唇から飛び出す荒くれ男も真っ青な言葉にターキッシュは酸欠の魚のように口をパクパクさせて腰を抜かし、お茶会の参加者たちは口元を扇で隠して体ごと視線を外した。細い肩を小刻みに震わせている少女も眉を(ひそ)めている少女もいるが、悪意や害意はない。単に笑いを堪えているだけだ。さっき男が乱入してきた直後から貴女様方は面白そうにしておられましたもんねー、とマドレーヌは内心で苦笑いする。



「 おまえ頭スコーン割って脳みそストローでちゅうちゅう吸うたろけー! 」


 言ってやった!噛むことなく一息で言い切ったった!マドレーヌは心の奥底から湧き出る充足感に小躍りしたかったが、ここで気を抜いてはいけない。このままではただの暴言女で終わってしまう。くるりと優雅に体を翻して女性陣に向き直り、小首を傾げてにっこり笑顔を一つ。



「あー怖かった♡」



 さしものご令嬢方も笑い声を隠しきれず扇をポロポロポロポロ取り落とし、庭園は密かな笑いに満たされた。


 やった!やすえ姐さんやったよ!貴女の芸はこの世界でも通じたよ!歓喜に打ち震えるマドレーヌだが、ふと我にかえって思う。



 ――どうしてこうなった?――

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