僕は君に嘘をついた。
「これで良かったの?」
ミランダが聞いた。
「あぁ、これで良いんだ」
「⋯⋯もう何も言わない、これがアンタの決断なんでしょ」
「⋯⋯」
僕は君に嘘を付いた。大事な君に嘘を付いた。
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その日は良く晴れてこれからの二人を祝福しているかの様だった。
彼女は白いベールをチョットあげてイタズラっぽい瞳を覗かせた。
あぁ、今日はいつにも増して綺麗だな。ボンヤリ見ながらそんな気持ちに蓋をする。
彼女の燃えるようなボリュームのある赤い髪、そしてルビーにも匹敵する赤い透明感のある瞳。
その容姿に比例する様に性格も明るく強い人だ。
今日の彼女を忘れないだろう。
今日という日が忘れられない様に。
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「寄ってかないの?」
彼女はそう言って自分の家を指し示す。
「あぁ、そうだなマイケルの奴はまだなんだろう?」
明かりのついていない暗い窓を見る。
「晩御飯良かったらごちそうするよ」
「どうするかな」
暫し考える。
「それがね、今日は新人の歓迎会が急に入ったらしくてね、ご飯が余っちゃうのよ」
「そうか、それは勿体無いな」
「でしょ、それに一人の食事は寂しいもの。遠慮しないで上がってよ」
彼女に勧められるまま二人の愛の新居にお邪魔した。
家は片付いてはいないが雑然とした生活感の中にもそれぞれのこだわりに溢れていた。
彼女は読みさしの本をそのまま伏せてその上には小さなメモ帳や髪を纏める為か色の付いた輪ゴムが散乱している。
そして手先が器用で何でも修理してしまうマイケルらしい工具や部品、ノートやペンも転がっている。
家を出る前に飲んでいたのだろうか、青いコーヒーカップがそのままになっている。
「もう、だらしが無いんだから」
そう笑って慌てて片付ける訳でも無く隅にそのまま寄せてしまう彼女。
「ハハハ……」
「何よ、散らかってるのが可笑しいの?」
「いや、らしいなと思って」
「らしい?それって失礼な意味かしら?」
「良いんじゃ無いか、二人の部屋って感じがさ」
マイケルのコーヒーカップを手渡しながら複雑な気持ちになった。
感情にあの日、蓋をした。2人の側にいる事を選択したあの日。
自分は大丈夫だ、そう言い聞かせた日々。
散乱していた輪ゴムで彼女は髪を纏める。
大好きな赤、眩しい赤……。
「そう言えば彼女はどうしたの?最近見ないけど」
彼女が料理をしながら声をかける。
「あぁ、別れた」
「えっ、聞いてないけど」
しゃもじを持ったままの彼女が振り向く。
「マイケルの奴には言ったんだが」
「そうなの?でも何で?」
「振られたのさ、無口で面白くも無いってね」
頭をガリガリ掻きながら言う。
「それ酷く無い?」
「そうか、当たってると納得したがな」
「そんなの初めから分かってる事じゃ無い!」
「彼女になれば違うと思ったんだろう」
「そんな人だった?結婚するかと思ってたのに!」
「残念ながらまだまだ結婚は先になりそうだ」
「……お人好しなんだから」
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「いつもの侘しい食事と違って栄養をつけさせて貰った、ご馳走さん」
「ねぇ、何処か遠くに行っちゃわ無いよね」
「何だ?そんな訳なかろうが、友人も仕事も此処に有る」
「ゴメン、ふとそんな気がしたの。気にしないで」
「新婚さんに当てられてか?」
そう言って見送ってくれているだろう彼女に帰りながら振り返らずに手を振る。
幸せに、誰よりも幸せを祈っているよ……と心で繰り返した。
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今回は男性目線の話です。