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2.清い告白

「なるほど。清い交際の具体的な基準を呈示すれば、私とお付き合いを……」

「いや待ってくれ!今のはなし!ちょっと頭の整理が追い付かなくて……!」


 なぜだ。なぜ……どうしてこうなった?


 俺は今日、普通に授業を受けて、何事もなく一日を終えていたはずだ。朝の星座占いでも『何もない一日でしょう』って言っていた。


 それが昼休みに水鳥川に声をかけられて、この空き教室に呼ばれたところからおかしくなり始めたんだ。

 最初は絶対に粗相をやらかしたんだと、だから謝罪文を頭の中に並べていた。ラッキーアイテムの消しゴムもポケットに入れて、俺の準備は完璧だった。


 それでどうして、学校でも屈指の綺麗好き美少女“水鳥川清奈”に告白されるなんて夢みたいなことが起きてるんだ……!


「あの……」

「な、何ですか!?」

「出来れば細かい待機時間を教えて下さると……計りますので」

「い、一分待ってくれ……!」

「分かりました」


 それきり彼女は腕時計を見て動かなくなる。


 相変わらずだ。この少し変わった几帳面さ……正真正銘の水鳥川清奈なのだと実感した。


 だから考えろ。残り五十秒くらいで状況を整理するんだ。

 まず聞くべきは……どうして俺に告白したのか、だ。


 ……そもそも告白なのか?こんな胸のときめきもない、返事の時間を数えられている状況が?謎過ぎて胸の動悸は激しいが。

 最初こそ引く手あまただった彼女が俺に告白する理由が分からない。俺は彼女と同じクラスというだけで、話したことなどないはずだ。


 もしかしてよくある、買い物に付き合って的なあれではないか?


 ……清い買い物のお付き合いってなんだ!?エチケット用品でも買いに行くのか!?違うよね!?


「五十秒、経過しました」

「……水鳥川さんのお付き合いって、恋愛的なあれですか……?」

「はい。男女の交際で間違いありません」


 それにしてはこの人表情変わらないし、告白には思えないけど……


「なぜ、俺……何ですかね?俺と水鳥川さんって同じクラスだけど、ほとんど接点ないし、話したこともないでしょ……?」


 改めて彼女を見る。


 艶があり、流れる黒髪。陶器のように白く透き通った肌。無表情に近いが、確かな意思を感じる瞳はとてもきれいで、近くで見ると吸い込まれそうな感覚に陥る。

 そして制服には少しの汚れもない、清楚な立ち振る舞い……美少女と呼ばれるにふさわしいと、俺ですら思う。


 だからこそ分からない。

 彼女ほどの人物がいたずらでこんな行為に出ることも考えられないからこそ、全く分からない。


「一目惚れです」

「……はい?」

「具体的には、一年生の頃から見た、あなたの振る舞いに一目惚れしました」


 それは一目惚れと言うのか?

 今までの人生でその単語に関わることもなかったから分からないけど。


「……分かりました。信憑性を挙げるために、例を三つ挙げます」

「へ?」

「一つ。一年生の文化祭、クラスの出し物準備で散らかる教室を遅くまで一人で掃除していた優しさ。二つ、誰も消さない黒板の清掃をする姿勢。三つ、先日ご高齢の方の荷物持ちを……」

「分かりました!もういいから!」

「……恥ずかしくても頑張って伝えていたのですが……」


 俺の方が恥ずかしいんですが!?

 相変わらずだけど、何なのこの子!こんな美少女にそこまで見られて評価されるとか、嬉しくなっちゃうから止めてくれ!


「というか、そんな地味な理由で……」

「む……訂正をお願いします」

「……え?」

「私はあなたのその無欲で、純粋な優しさと人柄に好感を抱いたのです。謙遜は結構ですが……恋する女子の前でそれを卑下するのは……悲しい、です」


 ……っ。


 ……さすが綺麗好きで潔癖な水鳥川さんだ。

 よどみなく、裏もなくまっすぐに気持ちを伝えてくる。

 ……あーもう。すっごい顔が熱い……そしてそれを、少し頬を紅くしながら言ってくるのはホントずるい。


「分かった。今のは謝る」

「はい……それで、その……お返事の方は……」

「そう……だな……気持ちは嬉しいんだけど、俺たち……少なくとも俺は水鳥川さんのことほとんど知らないし……いきなり恋人というのは……」


 こんな美少女からの告白を断るなどありえない。そう思う人も多いだろうが……今回ばかりは事情が特殊過ぎる。


 彼女が今まで恋人を作らない……そして作れなかったのは、告白をことごとく断っていたこともあるが、その性格も要因の一つだ。

 先ほどのやり取りでも分かるだろう。逐一時間を測り、例を挙げて事細かに話そうとする……几帳面、完璧主義。


 端的にいって変わっているのだ。


 ……その綺麗好きな性格も相まって。


 だからこそ、彼女と恋人関係になることが憚られる。


 特に俺は彼女のことをほとんど知らないときた。安請け合いなどすれば、どうなるか分からない。友達としてやっていけるかも怪しい段階なのに。


 それでは俺も彼女も報われないだろう。


「だからその、とても残念だけど……」

「お友達から、ということですね?問題ありません。プランBは用意してあります」


 ……?


 何か流れおかしくない?

 逸らしていた視線を水鳥川さんに向ける。どや顔で微笑んでいた。可愛い。


「あの、プランBとは……」

「私もそのような理由から断られることは予想してました。ではプランBに則り、清・い・お友達で互いを知ることから始めましょう。最後にまた改めて、告白させて頂きますので」


 なぁにそのノート。どこから出したのかな?

 何かすごい棒グラフとか数字で埋め尽くされた表とか……プランKとか色々見えるんだけど……。


「ちょ、ま……」

「これから私を好きになってもらえるよう、精一杯頑張りますので……よろしくお願いしますね?」


 そう言って、彼女はぺこりと腰を折って頭を下げた。多分ぴったり九十度。




 ……俺は、俺を好きだという水鳥川さんと友達になった……らしい…… 

 ……明日からやっていけるかな……



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