メイド長の難問
まだ、しばらくもっさりします。
てか、どうやって山作れば良いんだ?
[委譲]
二人のダンジョンマスターは、粗方の事情を飲み込むとそれぞれプロシージャを一つずつ置いて去って行った。
1体は、黒い球体で1体はメイド服を来た少女だった。
「三年も新たなプロシージャが現れないのは、ダンジョンが必要と感じていないからだろう。それはそれで異常、解析の為我がダンジョンのデュプリケイトを委譲しよう。君のプロシージャを呼び戻す助けとすると良い」
「じゃ、俺も。うちに遊びにおいで、デュプリケイトコアに言えば転移門開いてくれるよ」
[胸踊る未来]
なんと実りの多い日だろう。
グル師は自室に戻って反芻する。
空間魔法が存在する事の証明とされている転移門、
深く関わっているであろう召喚魔法、
まず視ることさえ出来ぬこれ等に身近に接することが出来たのだ。
そして、カーシャ。
日常的に、転移門=空間魔法に触れている彼女なら、
優れた空間魔法の使い手になり得る。
年がいもなく胸を躍らせ、
しかし、それでも年相応の肉体はグル師を眠りへと誘った。
[ドロシーとプヨ]
「名を賜りたく」「私にも」
アリスは浮き浮きしていた。
意志の疎通は出来るとは言え無言の眷族1体と、
たまに訪れてくれるカーシャだけがこの三年の友達だったのだ。
それが二人も増えた。
「貴女はドロシー、貴方は…プヨ!」
「プヨでございますか?」
受かれた気分がコアへの名付けに影響した。
[内弟子]
内弟子とは、師匠の小間遣いをして学問を教えて貰う授業料の代わりとする者の事だ。グル師もその積もりでメイド長のナウラにカーシャを託した。だが問題が一つ。
「敬語を使うドワーフの女は奴隷だけだ!」
カーシャが頑として敬語を使う事を拒んだのだ。相談しようにもグル師は居室に引き取りお休みになられている。国が招聘した程の大魔導師、その方が内弟子にしようと言うのだ。大した才能の持ち主には違いなく、無下にも出来ない。
敬語の必要が少ない内向きの仕事と言えば、厨房だが、意外に拘束時間が長く勉学に差し障るだろう。
困った挙げ句庭師の手伝いを命じた。
あの爺様と旨く折り合ってくれれば良いが。
[仮説]
出勤前の短い時間にグル師はカーシャに相応に短い講義をする。
内弟子なのだからそのまま大学に捩じ込んでも良いのだが、
カーシャの希望もあり受験させる事にしたのだ。
落ちれば落ちたで来年受けさせれば良い。
「全ての理論は仮説に過ぎない。この事は絶対に忘れるな」
「でも、導師、正しくなければ術式は動かないんだろう?」
ならば術式を導いた理論は正しいのではないか。
「違うな、術式は正しい範囲で動くだけだ」
間違っていても、概ね的を得て居ればそれなりに動く。
しかし、この説明は魔術師には辛い。
魔術師は式の理解より式への信頼を基に術を発動させるからだ。
あやふやな物をどうやって動かせば良い。
「君にはそれを乗り越えて貰う。何年掛かってもだ」
カーシャは今年は受からないかも知れないと思った。
[厄介払い]
校長室に入って、集まって来た願書に眼を通していると公、国筆頭魔導師のヘイアンが訪ねてきた。
「この度は申し訳ない」
さて、どう言い訳をしようかと言葉を纏めていると、ヘイアンの方が謝罪してきた。あの三人は坑洞でも屡々問題を起こしていた者達で、居づらくなったのかやや強引に割り込んできたのだと言う。
「なぜ、その様な者達を?」
「坑洞でも、厄介払いが出来ると推して来たのですよ」
なんと迷惑な…。
「此方も、坑洞とは揉めたく有りませんし、再考御願い出来ませんか」
「素養の問題なのです。中途半端に魔法学を齧っている所以で、学生に悪影響を及ぼしかねない。お頼みしたのは此方ですので言い難いのですが、あれは駄目です」
ヘイアンは首を振りながら立ち去った。魔術師としての能力には問題ないので何処かに捩じ込む事にするそうだ。しかし、新たな招聘は予算の関係で難しい、今季は諦めてくれ、との事。
[小首]
メイド型のプロシージャ、ドロシーは小首を傾げていた。召喚リストが数百年活きてきたダンジョンにしては貧弱すぎるのだ。
魔石は採れるし、湯石も不定期ながら排出される事から年を経ているのは紛れもないのだが、アリスがマスターになってから、僅か三年でしかない。
その間プロシージャも居なかった事を考えると、これが前任のマスターの蓄積の総てと言う事になる。理由を探ろうとアーカイブに潜っても要領を得ない。
此方は此方で広大すぎるのだ。まるで結節点が直接レコードに繋がっているかの様だ。
しかし、いつまでも時間を掛けている分けにもいかない。ドロシーは作業を中断して、マスターの為に朝食の用意を始めた。
「芋しかないのでしょうか」
呆れから、思わず声が出た。
[改善]
プヨ=コアは土塁の上から周囲を観察している。
このダンジョンは脆弱だ。考えうる限りの最低限の脆弱さに近い。
近いと言うのは、戦闘員としてウッドゴーレムが一体いる分、
最低限よりはましだからだ。
臆病なゴブリン数匹相手なら勝てるかもしれない。
それを少しでも改善しようと辺りを視ている。
「なるほど」独り言ちる。
廻りは荒れ地と言っても良く、水源からも離れている。
後背には背の低い岩山、植生や生き物の気配は薄く、
人の営みに役立ちそうな物が見当たらない。
それが脆弱なこのダンジョンの発見を遅らせたのだろう。
しかし、人々は此処にダンジョンがある事を、既に知っている。
多数決的に、的を得るではなくて、的を射るが正しいとされてます。多数決的というのは、[的を得る]の方も間違いと言うわけではない、とする辞書や放送局も有るからです。
[得る]には捉えると言った意味合いもあると言うのが根拠で[当を得る]などの例が挙げられています。
本作本話の該当部分では[得る]を使ってますが、[的を射る]では確定の印象が強く、使えないと判断しました。
[的を得る]の幾分ボンヤリした表現の方が此処では正しいのです。