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公国の歌姫  作者: 南雲司
20/21

歌う歌姫

[土塁へ]

「プロシージャってドロシーさんとかプヨとかみたいのか」

 アマーリには聴こえていたようだ。

「うん、ただ、あんなにちっこくなくてさ、てか、結構でかくて土塁に入れなかった」

「なんだそりゃ、無茶苦茶でかいじゃないか」

『前方から敵襲です。備えてください』

「誰?」カーシャ

『マティとお呼びください。ドロシーの姉です』


「うっひょー」

 虎治はカラフルな模様のデフォルメされた風竜と、追いかけっこの最中である。

 勿論追いかけられているのは虎治。

「虎治、残っているのはその二頭だけだ。さっさと片付けろ」

「うへーい」


 五人の中尉は細剣を振るった。相手は戯画化された人形で、木質、石質である筈なのに面白い様に切れる。

「腕が上がったと錯覚しそうで怖いな」クロ。

「同感だ」フトッチョ。

「ヤバい」ガイコツ。

 二体同時攻撃の一体を交わし損ねた。

 ガイコツは光の粒子になって消えた。


『呼称ガイコツ中尉のサルベージに成功しました。フィジカル、マインド双方に問題がないと判明し次第再投入されます』コアのアナウンス。

 アマーリ以外の全員が[死に戻り]を一通り経験した頃、土塁に到着した。


[触手スライム]

 何だこれは、そこに居る全員がそう思った。

 カーシャは二度目の死に戻りから帰って来ていない。


 一度目は、いつの間に手に入れたのか

 巨大な鍛冶ハンマーを振り回して、

 人形の群れに飛び込んだ時で死に戻りで帰ってきて

「御免、つい楽しくて」

 と、のたまわった。


 二度目は、皆が目にして居る、将に此れが原因で、

 カーシャは水平に再大出力で、

 土塁と見紛みまごう巨大な触手スライムに

 エナジーボルトを打ち放(ぶっぱな)した。


 完閉コンパクトな世界では、直線的に進めば元へ戻る。

 放たれたエナジーボルトは触手スライムを貫通し、

 世界を巡り、カーシャの右肩に着弾した。


「この、土塁と入れ替わった化け物スライムがマスターアリスを食って仕舞(くっちま)うって事なんだな?」

 ヒゲジイが問う。

『そう』

「では、どうすれば良い、切り刻むのか」

 蠢く触手にちびスライムが、果敢に戦いを挑んでいる。

 巻き付かれた、と思ったら、食いちぎって触手を食べた。

 ペッと食べかすを吐き出す、

 不味いのだろうか。

 何はともあれ善戦ではある。


『無意味、ちびスライムの様に魔素を吸収する必要がある』

『カーシャが戻る迄、遣れる事はない。休憩してて』

「敵のど真ん中でか?」

『戦意が無ければ、襲われる事はない』


 敵である結節点に意思や知能はない。ただ反応するだけだ。


[シャオの魔法講座(空間魔法編)]

 木目シャオの言う通り、車座に為って座ると、それ迄隙を伺うように取り囲んでいたカラフルな人形達は、三々五々散って行った。カーシャが戻る迄の間、シャオは空間魔法の基礎的な講義を行う。


 凡そ宇宙の存在は、四つの基礎子から出来ている。存在を示す[存在子]属性やスピンの符号等を規定する[情報子]質量の[質量子]運動を決定する[熱惑子]

 魔素とはそれら四つの内の幾つか、或いは全てが(ヌル)に為った物で素粒子への干渉力が高い。全てが0に為った物は[真空子]または[空間子]と呼ばれ大きさを持たない。しかし、この[真空子]に魔素を干渉させれば、理論上有りとあらゆる素粒子を出現せしめる事が出来る。

 幾許いくばくかでも理解できるアマーリとトムオスは兎も角、軍人五人には子守唄でしか無かった様で、船をこぎ出した。

『特に重要なのが情報子、此れを上手く使えば質量のない真空子の質量をマイナスにする事が出来る、これはイバーラクの軍事機密、真空圧縮』

「何でそれを、俺…僕たちに?」

『必要だから』ただし、圧縮するのは真空ではなくて魔素だ。


[役割]

 カーシャが帰ってきて役割が割り振られた。

『軍人達は護衛、三人には指一本触れさせない』

 応と、五人。


『アマーリは球状の掩体を構築、繊維構造体を使って魔素を遮断』

 術式を検討し何とか出来そうだと頷くアマーリ。

『トムオスは魔素圧縮の式を掩体の内側、全面に構築、維持』

 能力的にギリギリだ、ひきつった顔で余裕を見せようと努力するトムオス。

『カーシャ、カルーシャはトムオスの作った式を全力で起動』

 シャオの差配だ、トムオスの式も信頼できる。

 なにも問題はない。

 力強く頷くカーシャ。


『失礼します、シャオ様』

 マティだ。

『なに?』

『それだと、アリス様への侵食が進んでしまいます』

『策は二つ』

『サスケラ、虎治此処に来て』

 上空から天馬が二騎降り立つ。


[ちっさ]

「ちっさ」

 カーシャは思わず呟く。

 それもその筈、二騎合わせても掌に乗る程の大きさしかない。

「ちいさい言うな!」

 虎治は無視しよう。

『二人には中に入って触手と戦って貰う』

 アリスから注意を幾分かでも逸れさせる。

「帰って来れるの?」

 死に戻りのエキスパートである虎治から鋭い質問が出た。

『検索ラインをゴッソリ付ける』


『もう一つ』

 カーシャを向いて…。

『トムオスの式の此処と此処に隙間が出来る』

 眉を潜めるトムオス、ダメ出しか?

「誰がやっても出来ると思うぞ?」

 カーシャの言に頷いてシャオは…。

『次元の裂け目、流れてくる魔素を此処に誘導して』

 その魔素を追って、或いは引き摺られて来る結節点を落とし込む。

『後は神樹の仕事』

 皆の頭上にハテナマークが出現した。


 何でここで神樹?


       ・

       ・

       ・


   エピローグ

[苗]

「プロシージャ!」

 アリスはピョンピョン飛び込んで来たスライムを抱き締める。

「ちっちゃくなっちゃったね」

「ううん、かわいいよ」

「また、一杯遊ぼうね」

 アリスは歌う。

 一杯あそほ、

 かわいいプロシージャ。


 力仕事は、男の仕事だ。

 ベッドの上にはアリスと小さなスライムが寝ていて、

 それなりに重い。

 が、大の男が八人も居るのだ、ベッドは速やかに

 所定の位置に移動した。


「あれー?」

 虎治が何かに気付いた。

 部屋の真ん中、先程までベッドが置いてあった所に

 小さな木が生えていた。

「神樹の苗」

 木目シャオはそれ以上の説明は不要と思ったらしく、


 それだけを口にした。





理系の貴方、そこ違ってるとか言わない。

これは、量子論ではないのです。あくまでも、空間魔法理論。

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