退屈な姫
カーシャはグル師と出会います
[ドワーフ]
ドワーフの特質としてその語学の堪能さが挙げられる。
二ヶ国語三ヶ国を話す者はざらで、
さらにはそのような魔法でもあるのか、
知らぬ言語の土地であろうと、一月も住まえば、
まるで現地人の様に流暢に話すようになる。
通訳には最適な特性だが、困った因習もあり、果たせない。
極端に敬語を嫌うのだ。
[期待はずれ]
「ふん、これが空間魔法じゃと?主の眼は節穴か、これは固定魔法じゃ」
招聘されたドワーフは三人だった。その内のリーダー格と見られる男が振っているのはシャオの書いた術式だ。その中に使われている一部についてドワーフは語っている。
グルから見れば、シャオはそれを空間魔法の一部と見なし、ドワーフは完結した固定魔法と見ている。それだけなのだが、如何せんグルにはそれを説明出きる程空間魔法について知らない。
知っているのは恐らくシャオだけだ。
「では、この術式は動かないと?」
「当然じゃ、まるで無関係な要素を固形化いておる。無駄が大きすぎてエルフでも動かせんじゃろうよ」
ああ、このドワーフはだめだ。おそらく、スカウトに出向いた者が気を利かせた積もりで、魔法学に堪能な者を選んだのだろう。
魔術の発動には理解と思い込みが必要になる。正しいと思えない術式では、如何に力を注いだ処でピクリとも動かない。
魔法学の知識が邪魔をする。
「では私がやってみましょう」
グル師が術式に左手を翳すと、式が淡く光だした。鼻で嗤って見ているドワーフ。その嗤いが凍りつく。グル師の右手に光る玉が浮かび上がったからだ。
その玉は手を飛び出し壁に当たって消えた。
「魔石じゃ!魔石を隠し持っておろう!」
グルは喚くドワーフにお引き取りを願った。
貴殿方では役不足です。
[カーシャ]
カーシャは迷子になっていた。
門番に願書をどこに出せば良いのか訊いたのだが、教えて貰った道順の曲がり角をどこで間違えたのか、古い貴族の邸宅を改造した学内で、グルグルと同じ様な情景の続く、廊下を歩き回っていた。
と、人の声がした。
怒鳴っているようでもあるが、構わない。
もう一度訊くチャンスだ。そこへ向かう。
会いたくない人間がいた。
いや、ドワーフだ。
引き返そうとした処で見付かった。
「カーシャではないか。こんな処で何をしている」
怒鳴っているドワーフの後の方で所在無さげにしていた男が言った。もう一人も此方を向く。最悪な事に怒鳴っていたドワーフも一拍おいてカーシャを見た。
会いたくない男、叔父だった。
[会いたくない男]
「なぜ、ここにいるんじゃ、カーシャ。この男の奴隷にでも成り下がったか」
ドワーフの娘を奴隷に買っていたぶる趣味の者がいる。勿論、グルにそんな趣味はない。抗議の口を開こうとした処で、ドワーフの娘が噛みついた。
「自分の嫁を奴隷に売って酒代稼いでいる奴に、言われる筋合いはないよ」
「あたしは此れを出しに来たのさ」
願書を取り出して突き出すように見せる。
「魔術科の入学願書じゃと?女のお前には無理じゃ、大人しく俺の嫁になれ」
グル師は首を傾げる。漏れ出る魔素の量から言って娘には、十分な素養があるように見えていたからである。
「ここは坑洞じゃない!人族の国では女でも魔術師になれるんだ。あたしはシャオ・ハイマオになる!」
「つべこべ言わず、付いてくるんじゃ!」
掴み掛かるドワーフ。
グル師は堪り兼ねて声を挙げる。
「いい加減にしろ、ドワーフ!これ以上騒ぐなら、官権に突き出すぞ!その娘は私の内弟子だ」
咄嗟に吐いた嘘ではあった。気勢を削がれるドワーフ。他人の弟子に手を出すのはドワーフに取ってもタブーである。
折よく衛士が騒ぎを聞き付けてやって来た。
[内弟子]
カーシャは戸惑っている。衛士の対応からこの人族の紳士が学長である事は分かった。おそらく、[内弟子]と言ったのはその場を収める為の嘘だろうと思っていたら、学長室に入るように言われた。
「これが分かるかね」
見せられたのは、エナジーボールの術式のように見えた。
「ここんとこが習ったのと違う」
「ふむ、素養はあるようだな。そこはシャオが改変した部分で空間魔法を取り入れてある」
カーシャは眼を見開いて、
その部分を読む、
読もうとした、
読めなかった。
「最初はそれで良い」
どうやら、自分が本当に内弟子になったらしいと知った。
[退屈な姫君]
アリスは芋の数を数えて三月は持つと判断した。
してみると、カーシャは三ヶ月は来ないのだと思われる。
アリスはベッドにパタッと倒れる。
「うー、退屈だー」
三ヶ月間どうやって退屈を遣り過ごそう。
[事情]
「あたし、塒決めないといけないんだけど」
グル師の講義は延々と続き、陽は傾きつつあった。
「問題ない。内弟子は師匠の家に住む物だと決まっている」
男と二人きりはさすがに困る。
「それなら、家政婦達の部屋が別棟になっている。そこにすめば良い」
勿論家賃は只だ。
グラリと揺れるカーシャ。
しかし事情がある。
暫く考えた後打ち明けることにした。
この人は信用できそうだ。
もう一段落二段落書けるかと思ったんですけどね。文字数が詰まらずここ迄になりました。削れないって事は煮詰めが足りないって事かなぁ、うーん。