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公国の歌姫  作者: 南雲司
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死地への行進

意外と先へ進めませぬ

[援軍]

 キーナンの軍部がカイマン将軍の動向を掴んだのは、大分経ってからの事だ。どうやらダンジョンに向かっているらしいと知ったのは、ダンジョンでの攻防戦が始まろうとする頃だった。

 しかも、野戦に強いカイマン将軍とは籠城戦で対応すべきだとの意見も多く、また、ダンジョンアタックで疲弊したところを打つべきとな有力な策も出され、公への報告が遅れた。


 公は激怒した。今後の経済の要と為るべきダンジョン、しかも神樹の森の庇護下にあるとはっきりしているダンジョンを見棄てる、と言うのだ。

 軍務卿を直ちに解任し、新軍務卿に全軍を持って救援せよと令した。


 ヘイアン師にダンジョンとの連絡依頼が出されたのは、その後の事であった。


[攻略]

 将軍が先に投入したのは台車に置き盾を配した物で、三人の兵士で押し進め、厄介な銃器を無力化しようと言う物だった。正面通路は狭く、途中擱座すれば邪魔にも為るのだが、置き盾を倒して兵を殺到させる算段だ。

 見たところ六十メートル程の距離だ。これが半分の三十メートルに為れば、兵の損失も半分になる。


 置き盾も二枚重ねにし、なまじな銃弾では通らない様にしてある。十メートルまで迫った処で押していた兵の一人が崩れ落ち、貫通を許した事が知れた。

 即座に盾を倒し突貫する。この距離なら被害は僅少だ。


 外壁の最も低い所に梯子を繋げて立て掛け、身軽な兵が登って行った。登りきった処で暫し逡巡しゅんじゅんし、大声で報告した。

「立てる所がありません。内側は迷路です!」

 それから銃弾を受け、落ちてきた。

「次いけ!狙撃注意しろ」


[ヘイアン師]

『現在、取り込んでおります。来て頂いてもお構いできませんが』

「ウーシャラークがそちらに向かっておるようです。御注意願いたく」

『あら、その事でしたら、ご心配なく既におとなって来て居りますわ』

 コロコロと笑うドロシーに恐縮し、遅かった事を謝罪し、援軍が向かっている事を伝え、ヘイアン師は遠話缶代わりの魔石を置いた。


[インナースペース]

「なんだこれは」

 フトッチョ中尉は周りを見回して溢す。

 五人の軍人と少し離れた学生三人の居る所は、

 ダンジョン周辺を戯画化した様な所だった。

 腰の丈程の背の低い掩体がズラリと並んでいるのだが、

「土塁は何処だ」

 そう、中心点で有ろう筈の土塁が何処にも見当たらない。


『真っ直ぐに進んで、何処へも曲がらずに、ひたすら真っ直ぐ。土塁はそこにある』

 シャオの声だ。

「どの方向さ」

 カーシャが少し苛立って言う。

『どこでも、あらゆる方向は土嚢へ向かっている』

「完閉なのか!」トムオス

「球面上の対極にないとずれるぜ」アマーリ。

「じゃ、そうなんだろうさ」カーシャ。

「すまん、何の事か説明してくれないか」

 ヒゲジイ中尉が訊いた。


[ゴーレム]

 魔石を抜いた筈なのに、半ば破壊された四本脚のゴーレムが突然動き出し先の尖った脚の一本で近場の兵の太股を刺し貫いた。

「まだ生きているぞ!何処かに魔石を隠してやがる!」

 直線の二体のゴーレムがいたどん詰まりには左右に人一人が通り抜け出来る程度の開口があって、それに注意が向いた際の出来事であった。

 完全にバラバラにしても魔石は見付からなかった。


 開口の向こう側の通路は左右とも全く同じ構造に見えた。

 高さ三メートル程で天井があり、

 入り口方向へ五メートル程進んだ後(かね)に折れている。

 その角の処に円筒形の怪しげな物が立っていた。


「置き盾を外せ」

 台車は横倒しにしないと入らない。

 まずは置き盾を取り外して中に入れた。

 この距離だ。

 人力で押し立てて進んでも構わない。


 梯子から降りてきた斥候の報告は、不本意な物だった。先ず壁の上は斜めに削がれていて、立つ事が出来ない。二三メートル置きの円周状の壁がズラリと中心にある背の低い塔まで続くのが基本構造で、それに不規則な間仕切りを入れ、開口を要所に配して迷路にしていると推察された。

「壁の上に足場を渡すのは可能か」

「壁の高さがまちまちなので困難です」

 不可能ではないが作業に手間取る。それに、あちらこちらの高台に据わっているゴーレム達の良い標的になる。


「それと、意外な事に」

 壁が思ったより薄いと、斥候は報告した。

「破城槌を出せ」

 壁の周りに散らばってどかんどかんと騒音を立て始める兵達。

 勿論、それくらいで壊れるとは思っていない。

 音を聴いて破城槌を使う場所を決めるのだ。


[通路]

 幸い放射状に伸びる直線的な通路らしき物がある。

 外の世界のデストラップを模したのだろう。

「取り敢えず、此を辿って行きましょう」

「ちょっと待った、先頭は俺達だ」

 五人の中尉はいつの間にか武装していた。


[付与魔法]

 置き盾を支えながら進む兵の後ろを数十名の兵が

 ひしめき合いながら追随していた。

 半ばを過ぎた辺りで円筒形の物体が小さな鉄球を吐き出し始めた。

 置き盾にではなく、天井に向かって。


 跳弾が後続に降り掛かり、バタバタと兵が倒れた。

「付与魔法だ!」

 盾を放り出し突貫する先頭の兵。

 近づけば上に向けた弾道も、角度の関係で当たる。

 何発か受け、それでも抱き付いて押し倒し、

 体で射出口を塞いだ。

 彼の尊い犠牲に依り、この通路での戦死者は十名に留まった。


ネタバレしますが、小さなダンジョンの航空戦力は、馬鹿風竜だけではありません。

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