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公国の歌姫  作者: 南雲司
16/21

眠る歌姫

伏線が解れていきます

[増設]

 五十名ともなると土塁の中では手狭過ぎて門は開けない。掩体の外側でも良いのだが宿舎として用意してある土塁の外周域まで、少し遠い。掩体を壊した畑予定地に開くことにした。


 そこから、土塁の方を見やれば多数の人形達が蠢いている。何しろ急な増員だ。総勢で四個中隊、約千体の人形が投入され宿舎を造っているのだ。

 プヨも地下作業は中止して建設の指揮を執っている。


 壁と天井の繊維構造化は木目シャオが魔石に式を書き込んで四つ足人形に嵌め込んだお陰で、プヨでなくても出来るようになっていた。

 陽が落ち、掩体の上に臨時でズラリと設置された光源が光だした頃、転移門の解放要求があった。


[五十五名のお友達]

 アリスが緊張した顔でドロシーを見た。怖いのだ。三年前のトラウマが完全に消えた分けではない。目の前には五十五名の兵士達が片膝を付いている。


「歌を」

 シャオが促す。

 アリスがまたドロシーを見る。

「歌を歌っておあげなさい」

 ドロシーがニッコリと手を握る。

「皆、お友達になりたいのです」


 アリスの歌声が細く始まった。

 次第に柔らかく滑らかに、

 次第に軽やかに華やいで

 強く強く焦がれる心を包むように、

 優しく抱き締めるように。


 唐突に歌が終わった時、誰もが涙していた。


 眷族化に名付けは必ずしも必要ではないが、アリスは名前を付けたがった。

 ドロシーとプヨに名付けて以来、新しいお友達には名前を付ける物だと思った様だ。

 戸惑いながら五人の中尉達は忠誠の証となるならと了承した。


 ガイコツ

 フトッチョ

 ナヨ

 クロ

 ヒゲジイ


 ウーシャラーク人には、音の羅列としか聴こえない

 外国語の名前で良かった。

 リンクしていた、プロシージャ達はそう思った。

 この日はこれで終わりとなった。


 シャオは眉を潜めていた。


[インフラ]

 翌日、プヨはインフラの整備に着手した。

 井戸を掘り、揚水ポンプを設置し掩体の上に貯水タンクを設え、

 水を貯める。

 この人数では明らかにアーカイブ経由では魔素の消費が大きすぎる。

 放射性物質用のフィルタは手間だが、何種類もの繊維を積層化させ

 此れでもかと言う位厚みを持たせる。

 それでも透過してくるものは魔石で消し去る。

 その際発生するガンマ線は無視しても大丈夫だろう。


 糞尿は此れまで通り吸収するにしても歪なダンジョンの様に、

 低位の専用プロシージャを置くべきだろう。

 魔素が湯水のように消えていく。


[幼さ]

「ドロシーからはアリスは年相応に見える?」

 シャオ(木目シャオ)が突然訊いた。

「見掛けの年齢より幼い感じはしますね、それがなにか?」

 幼いと言えば、ドロシーの前身のマティ、マティの前身のコア、

 コアのマスターの虎治も、知能は兎も角精神年齢はとても若い。

 なのでドロシーはそう言う事に自分が鈍感に成っているのではと

 危惧している。


「今晩、眷族を集めて。アリスが寝てから皆に話す」

 ドロシーは唾を飲んだ。


[カイマン]

 カイマン将軍は督戦隊上がりの将軍である。督戦隊とは前線の後方に位置取り逃げる味方を、切り殺す部隊の事を言う。


 カイマンは、突撃の際、

 やや遅れて突貫を始め

 味方に追い付き、

 背後から

 切り殺し

 切り殺し

 切り殺し、

 遂には敵前に到達し、

 敵を

 切り殺し

 切り殺し、

 後退の銅鑼が鳴る迄に、敵本陣間際迄迫ったと言われている。


 他の国であれば、軍法会議即死罪の暴挙ではあるが、ウーシャラークでは合法で、重装備の督戦隊に追い付かれるのは、逃亡と変わらぬと言うのが論拠であった。

 しかし、前線が衝突ぶつかれば、突撃の速度は鈍る。カイマンが後ろに付けば、兵には敵に切り殺されるか、督戦隊に切り殺されるかの二択しか残らなかった。

 奴隷兵を不断ふんだんに使えた、戦乱期はまだ良かった。

 戦乱が収まりつつあった後期、奴隷兵の入手が滞る様になると、カイマンの遣り方では兵の損耗が無視出来なくなり、将軍に祭り上げられ、後方に下げられた。

 カイマンは思う。俺が指揮すれば、仮令たといどんな弱兵であっても、即興の死兵となる。一個大隊もあれば、世界を征服出来る。


「お前達は、弱兵と見なされた。故に儂が来た。生きて故郷に帰りたくば強兵であると証明せよ」

 即ち、ダンジョンの攻略である。ウーシャラークの作戦に介入し複数の士官と兵を奪い去った。明らかな敵対行為である。大義は我にある。キーナンも押し止める事は出来ぬ。

 口角泡を飛ばし、扇動とも付かぬ訓示は兵達に絶望をもたらした。中尉達と共に去れば良かったのだ。それが正解だったのだ。


 この日の午後遅く、ウーシャラーク軍は、キーナン守備隊の見守る中で領境を越えた。

 守備隊長は知っていたのだ。

「あれは狂犬カイマンだ。公都に早馬を出せ。全軍でなけれは押さえきれない」

 カイマンが出てきたのだ。

 ウーシャラークは全面戦争をやる積もりだ。


 その頃、漸く一連のゴタゴタが、カイマンの捏造した命令書が因らしいと気付いたウーシャラークは、カイマンの軍権の失効証と共に帰還命令を出した。

 キーナンへは、全てはカイマンの策謀であり、カイマンの指揮する部隊はウーシャラークの敵となった事を書き送った。

 何処まで信じて貰えるか不明なので、質として首長の娘も送った。


    ・

    ・

    ・


[眠る歌姫]

 アリスが寝たのを確かめて、

 シャオは眷族達にかなり深刻な発表をした。


「マスターアリスは結節点に浸食されている。このままでは五年以内に消滅する」


ただの猪突猛進ではダンジョンは落ちません。

なので、安心していた貴方、そうは問屋が卸さないのです。

在庫逼迫?何故知っている!

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