新たなる出発
友達なんにん出来るかな
[カイマン]
先任中尉の許へどう言った手蔓なのか、
既にカイマン将軍の出立の報はとどいていた。
「最悪だ」
「揉み消しに来る気だ」
「あんな奴が何故将軍なのだ」
散々な評価は、それもその筈、反乱軍首魁達の中で、
この無謀な作戦を仕組んだのが恐らくカイマンだろうと
当たりをつけていたからである。
自分等に分かるのだから、
気の利いた者なら誰でも分かりそうな物だが、
この素早さから言って露見する前に動き出したのだろうか。
中尉達は、濃い危険の気配を感じていた。
この日夜遅く、ダンジョンに使者として赴いていた分隊が、
夜陰に紛れ領境を越えた。
[お仕着せ]
魔導大学に制服と言う物はない。だからと言って何でも良いと言う物でもなく、入学式に相応しい服装と言う物がある。
「カーシャそれで出る積もりか」
グル師が呆れる。
「此れしか無いしな、ちゃんと洗ってあるから見掛けよりは綺麗だぜ」
いや、見掛けが大事なのだ。
大学の事務手伝いには小柄なメイドのお仕着せを借りて
腰のところで折り曲げてスカートの丈を合わせた物を着ていた。
今着ているのは庭師の手伝いをする時の継ぎの当たった作業着だ。
訊けばそれが一張羅だと言う。
仕方がない、メイドのお仕着せをまた借りよう。
上にローブを羽織ればなんとかそれらしくはなるだろう。
グル師はメイド長を呼んだ。
[報奨]
朝儀の席でヘイアン師は公から報奨を賜った。
使者を命じられて翌日にはダンジョンとの常設の転移門を、
開いた功績である。
ヘイアン師にしてみれば、偶々と成り行きの結果としての
功績であって、自分はなにもしていない、との思いも強い。
そもそも、本来はグル師が受けるべき報奨であろう。
しかし、命を受けたのはヘイアンであって、辞退などすれば
この先、功績を上げる者が報奨を貰いづらくもなる。
「交渉の緒に着いたばかりであり、未だ有意な合意には達しておりません」
と、言っては見たのだが、寧ろ評判が上がり、
報奨の額も増えたらしい。
ベッドの位置を変えようと、ヘイアン師は思った。
グル師に足を向けて寝る分けにはいかないからである。
[聞きたくない名前]
「カイマン将軍が来ると」
督府に帰着した中尉はいきなり聴きたくもない情報に曝された。
「そうだ早馬から折り返して出撃したらしい。進軍速度も早い」
先任。
「なので俺達も、大急ぎで出立する必要がある。首尾はどうだ」
別の中尉
「忠誠と引き換えに受け入れるそうだ。転移門を預かってきた」
帰着中尉
「転移門?」
どんな遠い場所であってもダンジョンに直接出入りできる門だ
と中尉は中尉達に説明した。
ええい、ややこしい。
だから中尉達の名前を考えて置けと言ったのだ。
[濾過]
プヨは木目シャオの考案した繊維構造体を徐々に、降ろしていく。
繊維構造体は立体的な真田編み構造、
応力の分散が極めて良好でムラも殆ど無い。
掩体の内部も此れと入れ換えよう。
粘土層に達した。
此処でプヨは気になる物を見付ける。
何種類かの放射性物質だ。
魔素が放出される際、少なからぬ量のガンマ線も出る。
此れだけ深ければ地表への影響は少ないはずだが、
地下の物質に取ってはそうではなかった様だ。
「地下水は濾過しないと使えませんね」
プヨは機能がない筈の溜め息を吐いた。
[メイド長]
グル師は切り落とせば良いといったのだが
それでは縁の篝が間に合わない。
後数時間で入学式なのだ。
織り込んで縫い付けるしかない。
グル師のローブをカーシャに着せ、まち針で当たりを取ると、
ナウラは此れでもかと言う早さで縫い始めた。
ほげーと見ているカーシャ。
ドワーフでも此れだけの腕の良い裁縫師は少ないだろう。
[欠員]
「なに、例え将軍が玄関先に到着してからでも余裕で逃げ出せるさ」
「なら、人数を増やしても良いか?付いて来たがってるのが居るんだ」
「訊いてみよう」
『構いませんよ。総数で五十名以内なら、受け入れ可能です』
「凄いな、その魔石が遠話缶に成っているのか」
「俺の中隊にも希望者が居るかもしれん訊いてみるか」
「じゃ、俺も」
「期限を決めよう。本日の夕刻まで、各々十名までだ」
「いくらなんでも、そんなにはいないだろう」
「だな、家族も居るんだし、俺等に付いてくれば反逆者だぜ」
意外な事に各中隊、十名集まった。
「おい、五人多くないか」
「あっ」
ドロシーに泣き込んで定員を増やして貰った。
その晩に大隊から五十五名の欠員が出た。
[入学式]
「カーシャこっちだ!」
成績順で席は決まっているらしい。
行けば直ぐに分かると高を括っていたら、違った。
五十八名しか合格者は居ないのに、大講堂は満杯だった。
アマーリに呼んで貰わなかったら、途方にくれたかも知れない。
「助かったよ、でもなんでこんなに居るんだい」
「あ、に、似合ってるよ、そのローブ」
「ありがとう、トムオス。君も今日は男前だぞ」
「大学設立の関係者とか外国からの来賓のお付きとか色々だな」
勿論、地元の合格者の家族も来ている。
「グル師だ。始まるぞ」
入学式と中尉達のダンジョンへの合流、なんとか同時に出来ました。チープなやったぜ感に浸っております。