敵は本能寺
シャオはやっぱり有能ぽい
[キャンプ]
領境を越える前に、一度キャンプを張る。中尉は四人の中隊長を集めた。
「なにか御用ですかな大隊長殿」
先任の第二中隊の中尉が嫌みたっぷりに訊く。序列から言えば、この男が大隊を任されるのが自然だ。
が、そうは為っていない。キャリアが長いだけに、胡散臭いと気付かれるのを回避した積もりなのだろう。
「キーナン領のダンジョンを攻略せよと命令を受けた。諸君の意見を訊きたい」
「キーナンと戦争になるぞ!」
先任中尉が叫ぶように発言する。
「跳ね上がり達が、勝手に部隊を持ち出した事に為る筈だ」
「まて、俺たちが勝手にやった事になるのか」
「そんな無茶苦茶な」
「そんな事をしてウーシャラークに、何の得がある」
ざわめきの中から、本質に迫る質問が出た。
「何もない」
大隊長代理の中尉は答える。
「これは恐らく軍部のスタンドプレーだ。ダンジョンを攻略したと言う名声とキーナンが強国に為るのを防いだと言う、ステータスが欲しいのだろうよ」
「下級将校五人の命と引き換えにか」
二中の先任が吐き捨てるように言う。
当然キーナンは首謀者達の首を要求する。
計が漏れるのを防ぐためにも指揮官達に、
生きていて貰っては、困るだろう。
速やかに、首はキーナンに送られるだろう。
「しかも、一個大隊では勝てない相手だ。そう報告したんだがな、本気にして貰えなかったようだ」
ではどうする。
程なく五人の中尉の腹は決まった。
[カーシャ]
カーシャが例の如く身長の倍程の雑嚢を背負って転移門を潜った時、小さなダンジョンは丁度夕げの支度をしていた。
「あれ?これいらなかったか?」保存食をパンパンに詰め込んだ、雑嚢を果たして下ろして良いものか、カーシャは迷う。どう見ても、貧相な保存食の出番はないような夕げだ。
「いえいえ、そんな事は有りませんよ」魔素を使わずに手に入るのなら、それだけで歓迎だ。
「お代は如何程」尋ねるドロシーにアリスが応える。
「ウッディが知ってるよ!ウッディお出で!」
ウッドゴーレムは、品物を見遣ると、腹の中から小さな魔石とこれまた小さな湯石を取り出した。
「こんなには要らないよ。高く売れる処見付けたんだ」ウッディは差し出した手をびくとも動かさない。
「貰ってお置きなさい。このダンジョンではそれだけの価値があるのです」
[人生経験]
入試トップの二人は昼を食べる暇もない、と言ったカーシャの助けに為るのならと、グル師の手伝いを申し出ていた。
「あれ、カーシャは?」
迂闊なトムオスが訊く。
「今日は休みだ。色々と忙しい娘でな。…なんだトムオス君はカーシャが目当てか」
隣で書類の整理をしながら吹き出すアマーリ。
「いえ、そんな…」
「おれ、いえ、僕達はカーシャが忙しそうにしていたんで、手伝いに来たんですが、トムオスその反応は軟派目的と思われるぞ」
アマーリの人生経験が欲しいとトムオスは心底思った。
[木目シャオ]
木目シャオはアーカイブに潜っていた。
やはりこの結節点は薄い。
どうやって存在しているのか分からない程に薄い。
鍵と為るのはアリスとアリスの歌だろうか。
その上で岩山から延びている鉱床に着目する。
成る程これは危険だ。
多いとは言え、含まれている硫黄の密度は低い。
しかし量が量だ。
凡そ千年程を掛けて魔素を吸収し、十年程で一気に解放する。
そのサイクルを繰り返していたのだろう。
さすれば、何時しかの解放期の時ダンジョンが芽吹き、
長年の魔素不足に耐えて今まで生きてきた事に為る。
途中魔素の最大消費者であるダンジョンマスターは消える。
次の解放期に新たなマスターを喚び輪廻は繰り返される。
最後の解放期の終わりにアリスは召喚されたのだろう。
ならば、これからは冬の時代だ。
「プヨ!こっち来て」
木目シャオは鋭い声でプロシージャを呼んだ。
[ドロシー]
カーシャが帰って、ドロシーはウーシャラーク軍の動向に注意をむけた。
「此方のトラブルは回避出来たようですね」
国境を越えて進軍して来たのは一個小隊だけで、さすがに此れは攻略とは考えにくい。某かの交渉を目論んでいるのだろう。
件の中尉が率いている。この時間からの進軍と言う事は、闇に紛れて移動しキーナンに見付からない様にする積もりだろうか。
ご苦労な事だ。
[グル師]
帰ろうとして、グル師は湯石の件で総務に話を通していなかった事に気が付いた。まだやっているかな?
「グル導師、どうされました」
まだ何人か残っていた。年配の事務員が声を掛けてきた。
「イェードゥの新領のダンジョンと伝手が出来てね、魔石と湯石を買い取って貰いたいんだ」
「新領のダンジョン?初耳ですな。誰か知っているか?」
誰も知らなかった。
これはもしかしたら、国家機密なのか?
「すまん、今の話は忘れてくれ、先にヘイアン導師と話す必要が有るようだ」
面倒臭い事にならなければ良いが。
[敵は本能寺]
大隊長代理の中尉を送り出した後、先任中尉は大隊の兵を集め、
事情を説明した。
そして強調する。
命令に従えば生きて帰れる者はいないと。
「それが三年前のイェードゥの一個連隊の起こった事だ」
鯖を読む。
「その損失が響き、イェードゥはイバーラクに破れたと言っても過言ではない」
事実とはまるで違うが、此方の方が説得力がある。
「諸君等はどうするか!ダンジョンに攻め入り、虚しく果てるか!それとも新領を取り、無謀な戦を仕掛けんとする輩の責を問うか」
夜の内に移動した大隊は未明に督府を襲い、
少佐を含む首脳を拘束した。
タイトルがメタ?
日本語で書いてる時点で、既にメタ!ってのが作者の言い分