プロローグ
イバーラクと同じ世界ですが、イバーラクは殆ど関わって来ません。違うお話です。
※上は構想段階では、そうだった、と言う事です。
途中からイバーラクをスポイルすると、話が窮屈に成り過ぎるので方針を変えています。不自然でない程度に関与。
[グル師]
グル導師もイバーラク魔導師協会の[ハイマオ的転換]の事は
聞き及んでいた。
伯楽としての目利きには自信が有ったのだが、
それが根こそぎ奪われた。
しかし何とか成るかも知れない。
シャオ・ハイマオの資質を視誤ってしまったのは
自身に足りない所があったからだ。
それを補えば良い。
「ドワーフを…ドワーフの魔術師を何人か教授として招聘して貰いたい」
出来れば、シャオと同根の魔術体系を持つと見られる
エルフが望ましいが、森から出るのを拒むだろう。
「魔術師ですか?」
公国筆頭魔導師のヘイアンは聞き返す。
ドワーフにも優れた魔導師はいる。
公国で必要とされているのは、
あらたな魔法体系を構築することの出きる
柔軟な頭脳を持った若い魔導師だ。
それを育てる為のグル導師の招聘だった。
なぜ魔術師なのだろう。
「優れた魔法理論を産み出す為には、優れた魔術師の支援がどうしても必要なのです」
ヘイアンは感動した。
ああ、これがあの天才シャオを産み出した名伯楽なのだ。
天才の師は、やはり天才なのだ。
[舞台]
キーナン公国はイェードゥの西に隣接する小国である。後背に小さな湖を抱え逃げるのが不自由な関係で半ばイェードゥの属国のような立ち位置ではあった。とは言っても尚武の気風もあり、逃げるのが不自由である事は、不用意に攻めれば窮鼠猫を噛む事態もある。蔑ろにすればいざと言う時後ろを突かれかねない。
そんな分けでイェードゥも、敬意を持って接し意外に良好な関係にあった。隣接地を併合し国土が倍に膨らんだにも関わらず、さしたる混乱もなく統合が進んだのは、そんな事情が関係したのだろう。
その新領地に小さなダンジョンがあった。
[ドワーフの娘]
「こんにちわ、芋もって来たよ」
身長の倍ほどの雑嚢をひょいと下ろす少女はずんぐりと小さく骨太で人族には見えない。それもその筈ドワーフである。
「…」
木の根を絡めて作った人形のような物が無言で受けとり小さな円盤を渡した。見る者が見れば湯石とわかる。
ここはダンジョンの入り口、湯石の大きさからまだ若いダンジョンなのだろうか。三メートル程の盛り土の横穴が入り口である。
「アリス…マスターはまだ寝てるのかい?」
無言で頷く人形。
「ふーん、起きたら、暫く来れないって言っといて。じゃね」
重たい荷物で凝ったのか腕をグルグル回しながら、ドワーフの少女は去って行った。
[歌姫]
「なに?伝言?」
目が覚めると眷族のウッドゴーレムが立っていた。
アリスはサイドテーブルの水差しを手に取ると直接口を付けて飲む。
「そっか、来れないんだ。試験とか言ってたけど、それ?」
「それは聞いてないのね。ありがと」
「そっか、カーシャは暫く来れないのか」
アリスがプロシージャをうしなってから三年になる。その間、召喚も滞って、お陰で魔素だけは潤沢なのだが、不埒な者が押し入って来たら頼りになるのはウッドゴーレムのウッディだけだ。
湯石が出るのだから若いとは言っても出来て数百年は経つダンジョンだ。アリスがマスターになってまだ三年、そう、入れ替わりの様にプロシージャは死んだ。
押し寄せてきた、イェードゥの大軍を飲み込み、自らを消した。それ以来ここを訪れるのは、ドワーフの家族だけだった。その家族も一月程前にカーシャを残し坑洞に戻った。
アリスは日課を始める。それが正しいやり方なのかは知らない。結節点からの間断のないメッセージ、なんだか分かるようでさっぱり分からないメッセージを噛み砕いて解説してくれたブロシージャはもういないのだ。
透明な歌声が空を越え宇宙に染み渡って行った。お願いプロシージャ戻ってきて…。
また、ダンジョン?そう思った貴方、ご免なさい。
ダンジョン使わないと、旨く構築できない世界観なのです。