第04話】-(開演
〈主な登場人物〉
紬/イトア・女性〉この物語の主人公
その他ギルメン〉カナタ、トゥエル、ユラ
シャル〉赤い瞳を持つ少女
(客観的視点)
一瞬の静寂。
そして木の葉がひらりと一枚、ゆらゆらと地面に到達しようとしたその時、トゥエルが指を鳴らす。パチン。
──無詠唱。
地面から魔法陣が浮かび上がる。そこにはシャル同様赤髪の少女が猫のように背中を丸め寝そべった状態で姿を現した。それはトゥエルの予想通りまだ寝息を立てていた。少し呆れた様子でトゥエルが口を開く。
「ユラ、いつまで寝ているの、起きなさい。お目当てのものを見つけたわよ」
「…ぁあ?」
その声に目を覚ましたユラは上半身を起こし頭を掻きながら周囲を見渡す。寝ぼけ眼の先に一人の少女の姿を捉えた。そしてふぅとため息をひとつ。今度は頭をかいていた手のひらを額に当てる。
「勘弁してくれよ……ガキ相手なんてきいてねぇ」
そう言うと立ち上がり大きく背伸びをした。その間にも赤い瞳のシャルが召喚した魔獣が徐々に姿を現していった。ゴツゴツとした岩で作り上げられた人型の魔獣、ゴーレム。その大群がイトア達を静かにじっと見ていた。トゥエル達の様子を見ていたシャルが人差し指を唇に当て笑う。
「あ、もう一人お姉さんがいたんだ。その銀髪と赤髪のお姉さんはできれば生け捕りにしたいな。だってね、お母さん、女の人を食べる時とても機嫌がよくなるから。大人しく渡してしくれたら……お兄さんたち、見逃してあげてもいいよ」
すると残されたもう一人の女性が悲鳴にも似た声をあげた。
「あら……私のことが見えてないのかしら」
冷静を装うように無理やり笑みをこぼす。しかし、シャルは何処吹く風で一言。
「だって女の匂いがしないもの。ねぇ、お兄さん」
「なっ……」
トゥエルの顔は紅潮しシャルの返答にカナタが顔を背けると口元に手を添え、笑いを必死にこらえていた。その行為でさらにトゥエルの顔は紅潮し。
「カナタ、後でゆっくりお話しましょうか」
トゥエルはカナタに鋭い眼光を向けるとその矛先をシャルに向け直した。
「おい、そのくらいにしとけよ。そんな呑気な事言ってる場合じゃないだろ」
先程まで寝ていた者の言う言葉なのかと、皆の冷たい視線を浴びながらも、ユラは既に戦闘態勢に入っていた。そして今の状況へと引き戻していく。
「お嬢さん、男がここで はいどうぞ、なんてことしませんよ」
カナタが子供を宥めるように優しい口調で、しかしその瞳の奥は鋭く答える。するとその言葉を待っていたかのようにシャルの赤い瞳がカナタ同様に光を宿す。
「お兄さん、格好いい~。じゃぁ、シャルも遠慮しないよ。私の可愛いゴーレムちゃん、お姉さん達を捕まえてきて」
シャルは、口角を上げニヤリと笑うと数十体はあろうかと思われるゴーレムの大群に向かって指示を出す。タクトをくるりとひと振りした。
「おい、これが城からの依頼かよ。しかもあんな数一気に召喚できるなんて……トゥエル、お前より強いんじゃね?」
このユラの言葉にトゥエルの二回目の悲鳴があげる。
「は? 失礼なこと言わないで頂戴。あれは、魔力量を分散させているだけですわ。私は一点集中型。魔力を集約させた一体で戦うスタイルですの」
「えっと、つまり数が増える度に一体の威力が半減するってこと?」
背後にいたイトアが顔をのぞかせた。
「そういう仕組みですわ」
「そうと分かればさて、僕達もそろそろ行きましょうか」
「おう、子供ってのがやりにくいがしょうがないわな」
そしてトゥエルがもう一度指を鳴らし魔獣を召喚する。白銀の甲冑を身に纏い美しき金髪の戦乙女がトゥエルの前に姿を現す。
「ふーん。そっちのお兄さんもあたいと同じ(魔獣使い)なんだ。つよそー。後であたいにちょうだいね」
「ふん、なにをほざいてるのかしら。その歳でこれだけの魔力量、それは褒めて差し上げますわ。でも、格の違いってものを十二分にみせてあげますことよ」
そしてトゥエルの舞が始まる。
──『争闘円舞』
カナタも穂先が斧になっている槍を具現化させた。ユラは、すかさずトゥエルの身体を守るため魔法障壁を具現化していく。
「あのゴーレムは、僕たちが何とかしますからイトアはあの少女の動きを封じてください」
「うん、わかった」
「全くいつから私を差し置いて指示するようになったのかしら」
「何か意義でも?」
「いえ、上出来よ」
トゥエルは、自分たちを囲むゴーレムの大群をみながらカナタに話しかけた。
「カナタ、こういうのは、勢いが大事ですの」
トゥエルは横目で何か合図を送るように見つめる。それを察したかのようにカナタは、頷いた。
「分かりました」
そしてカナタとトゥエルの召喚獣ワルキューレが一気に走り出す。それは真正面ではなくお互いがゴーレムを挟むように両脇に別れていった。
(続く)