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淡い少女に冒険と恋愛を。  作者: 雨森蜜
5 七日間の縁(よすが) [全10話]
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第05話】-(四日目

〈主な登場人物〉

紬/イトア・女性〉この物語の主人公

トゥエル・男性〉ギルメン、主人公と相思相愛

ティーナ〉城にいる少女

(紬/イトア視点)


──休暇四日目。


 トゥエルは、明らかに不機嫌な顔をしていた。


「急にいなくなって、今度は私を呼び出すなんていい度胸してますわ」


 私はその威圧に視線を逸らせず、ただただ苦笑いを浮かべた。トゥエルは約束の時間よりも一時間も早く城に来ていた。まだティーナも来ていない。私が借りている部屋で待ってもらうことになりトゥエルをその部屋に通す。


 私が先に入り座ってと椅子を引く。トゥエルはコツコツと高いヒールの音を鳴らし近づいてくる。なんだかこの靴音までが怒りの音にすら聞こえてしまう。でも彼女は、椅子を通り越し私の腕を引くとその胸に吸い寄せられた。


 数日しか経っていないのになんだか久しぶりに味わう感触。そして、香り。それでも不意打ちにされた行為に私が驚いて顔を上げると既にトゥエルのその綺麗な薄紫色アメジストの瞳がゆっくりとそして徐々に瞳を閉じて近づいていた。


「…………」


 唇を動かす度に音がこぼれていく。トゥエルは会話をするように唇を重ねてきた。もう私が逃げれないようにしっかりと腰に、頭の後ろに手を回し──。決して離してくれない。そして無言の会話が終わると。頬を寄せ合い耳元で少年のトゥエルが話し掛けてくる。


「元気そうで良かった。死ぬ程心配した」


 何も告げず行ってしまったことを責められるかと思っていたのに。その優しい言葉だけで涙が溢れそう。私は言葉を発しようと何度も息を吐いていると。


「怒ったりしていない。この原因は夢食らい(ナイト・メア)の事と関係しているんだろ? 何も言わなくていい。お前の気持ちは理解してるから」


 私は、肩に埋めた顔をさらに押し当てた。言葉が無くても繋がれている事がとても嬉しい。


「……ごめんな」


 私は首を横に振る。私こそごめんなさい。私の声が届いたのか──。


「お前が謝ることはない。ここでお前の心が安らぐなら俺の事なんて気にする事ない」


 ほら、私が安心する言葉を掛けてくれる。私は顔を上げトゥエルの顔を見ると唇を動かした。


 ──ありがとう。


 そして私には伝えたい言葉がもう一つあった。

 でも恥ずかしくて間が空いてしまう。


「どうした?」


トゥエルが首を傾げる。私はゆっくりとまた唇を動かす。


 ──だいすき。


 トゥエルにこの言葉が伝わったのかは分からない。笑顔で返すと瞳から涙が一粒こぼれた。そして目を開けると私は瞠目する。なぜならトゥエルの瞳も同じだったから。一粒の涙がこぼれていた。


 初めて見るトゥエルのその雫。我に返ったトゥエルは一瞬下を向き顔を伏せると、次の瞬間には涙は消えトゥエルも笑顔で返してくれた。そしてまた抱きしめられ耳元に口を寄せると。


「馬鹿者……言わせるなよ。俺はその何百倍も大好きなんだから…」


 えっ……。


 肩に埋もれた瞳からは大粒の涙が溢れる。するとトゥエルはまた私に顔を向けると唇を重ねてくる。


「そんな顔、頼むからしないでくれ……微笑んでくれよ」


 私の涙を拭いながらもその唇は離そうとしない。貪るように何度も何度も。私の涙が止まると唇を離してくれた。彼は微笑む。


「大丈夫。あれから調べたんだが治る可能性は高いから。それまでお前はゆっくりしていたらいい。休暇が足りないなら俺がなんとかする。お前は何も心配する事はないよ」


 トゥエルは頬を擦り寄せ優しく頭を撫でてくれる。私はその温かさに心を委ねた。その後、ティーナが来るまでの間、トゥエルは私の髪を編んでくれていた。


 私は上機嫌でその指先を鏡越しに見ていた。すると扉が勢いよく開きそこには鼻息を荒くしたティーナが立っていた。ノックもなく開いた扉に私は肩を揺らす。


「あら、もう来てたのね!」


 今日もティーナは元気一杯だ。私の結髪をみるとティーナは目を大きく見開き両手を合わせた。


「まぁ! 素敵! イトアにとても似合ってるわ」


 私はちょっと自慢げに、にんまりと微笑んだ。だってトゥエルが結ってくれたんだもの。似合わないはずがない。


「ショッピングしたいっていうのは、あなたかしら? 私はトゥエル。何かリクエストはあって?」


 トゥエルは結っている手を止めるとティーナの方に振り向き余所行きの笑顔で挨拶を交わした。


「私のことはティーナって呼んで頂戴」


 ティーナも簡単に挨拶を済ませると指を口元に当て天井を見上げる。


「うーん。私、あなたのような素敵なドレスを見に行きたいわ。ここでは使用人が用意した物しか着れないの」


 顔を下げるとティーナは食い入るようにトゥエルの服装に瞳を潤ませ答えた。


「分かったわ。それでは、早速出かけましょ」


 私達三人はティーナが用意してくれた馬車に乗ると以前トゥエルに連れていってもらったトゥエル御用達の仕立て屋さんに向かう。店に入るなりティーナの瞳が輝いた。


 店内はオーソドックスなドレスのデザインもあれば、もう少し形を崩したゴシック調のドレスまで相変わらず種類豊富に取り揃えてある。もちろんオーダーメイドも可能だ。


「外では、こんな素敵なドレスがあるのね」


 ティーナはマネキンからするりとドレスを脱がせるとあっという間に手一杯のドレスを抱え、鏡に向かって合わせている。その隣にはトゥエルが並び二人でドレスを選んでいた。私はそれをみて綻ぶ。


「イトアには、これが似合いそうね」


 不意にティーナがフリフリのドレスを私に勧めてくる。今度はトゥエルとティーナ、二人からの熱い視線が送られてくる。私は、冷や汗を流しうっすらと微笑む。


 それをみて何を勘違いしたのかティーナが思いもよらない一言を。


(続く)

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