1話 月の光が見下ろす物語
疲れ果てた、よれよれの背中。
草臥れた服装に、不釣り合いではない猫背。
見慣れた「日常」
ありふれた「風景」
叶わない「願望」に届かない「未来」
上から下までブランド仕立ての闊歩。
溢れる自信。
或いは隠せない品格。
それも又、見慣れた「日常」
ありふれた「風景」
恐らくは叶ったであろう「願望」
既に届いているのだろう。
或いは少なくとも「手には納めた」であろう「未来」
「夢見る」表情。
可能性を信じて疑わない無垢。
戸惑いと、明るい未来を行き来する「矛盾」
せわしなく動く「未来」
あらゆる「明るい」「暗い」「不透明」が不意に溢れだした瞬間。
呆然と見送るしかない「日常」をただただやり過ごす。
「そう悪くはない」「こんなもんだろう」
鏡の前で苦笑いを噛み潰す。
「現実は見せられる物」それ以外には考えられない。
今辿り着いた道の途中が、たとえその道のりの終着点だったとしても、それはそれで、そうは悪くはないと思える「今」
下を見る事はあっても、思う螺旋は横と縦に伸びる事しか考えていない。
いつしか、横を描く平行線を維持する事が理想だと気が付きながら、朝のシャワーとコーヒーでそれを振り払う。
「見える現実」が不意に崩れなければ、維持できればそれでいい。
見切り品で一日を過ごしても、思い描く理想に邁進している。
或いは、そう信じて疑わない毎日。
未来はこの手に掴む為にある。
努力は裏切らない。
頭の片隅に浮かぶ、微かな不安を無理矢理覆い隠し、遮二無二努力する。
今は「見たい現実」が全てでいい。
僕は眠れなくて、窓に映る月を見上げて、目を閉じた。
光の残像に向かって手を伸ばす。
空を掴んだのか、手に納めたのか、欠片を掴んだのかが不意に気になって、僕はカーテンを開けた。
窓越しの「四角い空」は、やっぱり四角い空だった。
窓に当たって、少し屈折した月の光は薄暗い部屋に優しく忍び込み、ベッドに座り込んだまま動けない僕を射ぬく様に、包み込む様に、又は、ただただ見下すかの様に辺りに散りばめられていた。




