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8.


 一晩走り続けたら、夜明けとともに突然、森が開けた。


「あそこがエルフの居住地区だ」


 へー、これがエルフの街か。ついにエルフに会える。

 森を超えた先には大きな丘陵地帯。

 その一番高い場所に馬鹿でかい広葉樹がそびえ立っている。

 ここから見ても木の天辺は雲を突き抜けている。

 よく自重で折れないものだ。


「中央がエルフの護木。この国では最後の一本だ」

「護木?」

「ああ、護木は世界を護り、エルフは護木を守る守り手だ」

「護木がなくなるとどうなるの?」

「世界は悪魔に滅ぼされるらしい」


 悪魔かぁ。

 一応、僕も悪魔の手先みたいなものなんだけど、そこは黙っておこう。


「最後の一本って?」

「ミリアム王が、この国にあった護木を次々と切り倒したのだ。俺は母からそう聞いていた」


 ああ、それは嘘だね。

 こんな木があるなんて知らなかった。


「ああ、それはもう理解した。ノアは王宮の底に閉じ込められ何もしらなかったんだからな」


 しかし、レイモンはレイモンで簡単に人を信じすぎだぞ。

 もう少し疑った方がいい。


 そう思いつつ、再びエルフの居住地区を眺めた。

 護木を中心に放射線状にいくつもの巨大な広葉樹が植わっている。その周囲を囲むように集落が拡がっていた。


「あれも護木?」

「いや、あれは祭木だ」

「さいぼく?」

「ああ、祭木だ。エルフは護木を守る代わりに護木から祭木を与えられる。祭木を中心に集落を形成し、生活をするのだ」


 へー。

 あ、でもところどころに祭木から離れた集落があるなぁ。


「あれは?」

「ああ、あれは俺のようなハーフエルフや、亜人に好意的な人間、それにドワーフ、巨人やホビットなどが集まってくらしている」


 ああ、レイモンのお母さんと妹がいるんだっけ。


「お母さんと妹は巨乳?」

「はぁ?」

「いや、忘れて」


 一瞬、レイモンの殺気が膨らみ命の危険を感じるほどになったので慌てて誤魔化した。


「お前は本当にエルフが好きなのか」

「好きなんです」


 大きく頷く。


「そうか」


 レイモンは僕の返事に大きく溜息をついた。


「それで僕たちはなんで囲まれているの?」

「気が付いていたのか?」

「うん」


 元々、自分の命が狙われているような場合には敏感なのだ。

 それがレイモンの殺気を受けたことで、具体的にどの方向から殺気が発せられているのか解るようになった。


 今は背後の森から複数の僕への殺意がビンビンに感じられる。

 その中でも一際大きい力を持つ殺意がある方へ僕は視線を向けた。


「レイモン!」


 その方向から大きな声がした。

 どうやら、こちらへ出てくるようだ。


 随分、身長が高いな。耳の先が尖っていることから辛うじてエルフだと認識できるが、立派な髭を蓄えており、まるでドワーフのような印象を受ける男だ。見た目は人間で言えば40歳くらい。エルフはいつまでも年を取らないと思っていたのだが、渋いエルフも悪くないな。男には興味は無いが。


「そいつは王だな」

「え、は、はい」


 ひげ面エルフに質問されたレイモンはあっさりと僕を売った。

 王位は捨てた、名前を変えたと言って解ってくれていたかと思ったにいきなりの仕打ちだ。


「区長、いえ、あ、王なのですが、これには事情があって」

「よい。よくやった。これで積年の恨みも晴らせると言うものだ」


 そう言って区長と呼ばれた男が腰に下げていた剣を抜いた。

 いや、レイモンがちゃんと説明しようとしているよ。最後まで聞いて欲しいな。

 あ、剣をこちらに向けないで。

 

「ちょ、ちょっと待って」

「なんだ王よ。我らが居住地域に勝手に入ってきたのだ。覚悟は出来ておろう」

「覚悟なんて出来ていないよ。僕は助けに来たんだ。この後、王国の軍が攻めてくるから」

「助けにだと」


 僕の言葉に区長が大きく反応した。

 まさにゴゴゴという音が聞こえそうなくらい、怒りのボルテージを上げ剣を振り上げたのだ。


「我らを馬鹿にするのはいい加減にしろ」


 距離を詰め、一気に振り下ろしてくる。

 完全に僕を殺す気だ。

 ああ、これは死んだな。


 不思議に怖いという感情はなく冷静に剣筋を見つめ、避けた。


「ぬっ」


 完全に必殺の間合いに入っていたと思っていたであろう区長だったが、それでも剣を地面まで振り抜くようなことはせず、僕の膝くらいの高さでピタリと止めると、そのまま横に薙いだ。


「危ね」


 二太刀目も、キッチリと距離を取って避ける。

 剣速は充分速いのだけど、どうも、その速さに付いていけているようだ。

 うん、一晩森を走り抜けたこの身体のスペック、一気に10年間サボっていたツケを解消してくれているようだ。


「区長さん、落ちついてください。僕はこの国の王だったんだけど、国を棄てたんです」

「そう言って謀るつもりか」

「だから本当だって」


 剣を構える区長から一定の距離を取りながらも、僕は必死に弁解をする。

 何としても、この関門を超えなければならない。

 なぜなら、すぐ先にエルフの街があるからだ。


「区長、俺からもいいですか」

「なんだ。言ってみろ」

「陛下の言っている事は本当です。どうやら俺達は貴族達に騙されていたみたいだ」


 その言葉にしばらく区長は考えていたようだったが、やがて大きく息を吐くと剣を降ろした。

 そして俺を観察するようにじっとみつめたあと、右手を挙げた。


 急速に森の中から送られてきた殺意が薄れる。

 多分、あそこにはまだ20人くらいのエルフが居たのだろう。


「王よ」

「もう王じゃない。名前も捨てました」

「そうか」

「今はノアと名乗っている」


 その言葉を聞いて区長は僕から背を向けた。


「レイモン、そして人のノアよ。歓迎する。付いてこい」


 そう言って歩き出した。

 やった。 これでやっとエルフの街に入れる。

 ついにご対面だ。まずは巨乳エルフでもいい。

 俺の夢を叶えさせてくれ。


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