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5.

 エルフが多く住むミリアム王国の地。

 海へせり出すように伸びている半島が我が国最後の亜人が暮らす地域らしい。


 我が国と言っているのも、どうやら勝手に国境を定めている範囲での話らしいが、ともかく、そこは領地だという事をご先祖様が決めたらしいから、そこに亜人が住んでいるのは駄目だそうだ。


「という事で北方に侵攻する前に状況を確認したいから御前会議を開いてくれるかな」


 無表情君にお願いしてみた。


「それが何の役に立つのでしょうか、陛下?」


 無表情のまま切り替えされた。

 だがここで折れては大切な正統派エルフを救うことは出来ない。


「僕の親征なんだよね? だったら指揮権は僕にあるはずだ」

「素人なのに」


 言い返せねぇ。


「勅命だ。会議を開け」

「断ります」


 無表情君はそう言って、どこか遠くへ視線をずらした。

 勅命すら効かない王って、本当に何なんだろうね。


「じゃぁ、僕を逃がして」

「逃げる?」


 初めて無表情君が僕を見る目に無関心や怒り以外の感情が浮かんだ。これはチャンスか。


「僕は物心ついてからずっと軟禁されている。王として振る舞う事も、人として生きることも許されていない。だったら、もうここから解放してくれないか」

「王としての誇りはないのですか?」

「民からも兵からも、そして貴族からも疎まれている僕がそんなものを持つと?」

「ほう……それは気が付いていたんですね」


 いや、あの状況で気が付かないってどんなボンクラだよ。あ、そういえば記憶が戻る前の僕は宰相の人形のような生き方をしていたんだっけ。


「もう限界だ、逃がしてくれ」

「なら退位すればよろしい」

「その後、リヴィエールに殺されることが確定しているのにか?」

「ではリヴィエール宰相を解任すればいい」

「誰がそれを認めるんだ。もういい。頼まない」


 駄目だ。

 こうなれば自力で……殴る。


「痛い!」


 格子を殴ってみたが、普通に痛かった。

 しかし、僕には強靱な身体にストレス耐性、諦めずに努力を続けられる才能がある。それを今、発揮してやる。


「痛い!」


 殴る。


「痛い!」


 殴る。殴る。殴る。

 強靱な身体のおかげで大怪我をすることなく殴り続けた。

 最初はじっとこちらを見ていた無表情君だったが、そのうち飽きたように視線をそらした。

 だが諦めない。

 殴る。殴る。殴る。徐々にだが痛みを感じなくなってきた。麻痺してきたという事だろうか。だが何となくだが少しずつパワーが出てきた気がする。


「陛下、食事です」


 気が付けば夜になっていた。

 いつの間にか馬車も止まっていた。


「隊長から煩いので静かにさせろと言われましたので、睡眠薬を入れております。よく食べてぐっすりお休みください」

「それを本人に言うのか!」


 だが、ずっと身体を動かしていて腹が減ったのは事実。そして何かを食べた方が身体が強くなるという予感があったため、睡眠薬入りの食事を僕は気にせず食べた。どうせ耐性があるし。


「あ、言い忘れました」

「何?」

「痺れ薬も入っているそうです」

「そうか」


 同じ事だ。薬は効かない。という事で完食した。さすがに王に出す食事なので進軍中とはいえ、そこそこ美味しい物だった。


 満腹で眠くなるが、薬が効いている訳では無いので耐えられないほどではない。

 さぁ、格子を殴り続けよう。朝まで。



 朝になった。


「陛下」

「なんだ」

「隊長から煩いから殴って黙らせろと命令を受けました」

「やればいいじゃないか」


 一晩中、格子を殴り続けたことで何だか身体が調子がいいのだ。


「そうですか、じゃぁ、隊長!」


 無表情君が動き出す準備をしていた隊列に向かって声をかけた。


「陛下を黙らせるので外に出します。よろしいでしょうか」

「早くしろ。どうせ子供だ。出しても問題あるまい」

「わかりました」


 隊列の中央から聞こえる声に対し無表情君がそう答え、格子の扉になっている部分を開けた。


「さぁ、陛下、どうぞ」


 出ていいのか?

 無表情君の顔をじっとみつめる。

 何を考えているのか解らない。


「さぁ、どうぞ」


 もう一度そう言い、無表情君は扉の前から一歩引いた。

 その表情を見つめると無表情君は微かに頷いたような気がした。


 よし逃げよう。



「陛下が出奔された!」


 僕が走り出し沿道の森に飛び込んでから数分が経過した頃、遠くから兵がの騒ぎ声が聞こえるようになった。

 無表情君がすぐに騒ぎ出さなかったところを見ると、やはりあれは僕を逃がしてくれたのだろうか。

 理由は分からない。なにせ無表情君の表情は読めないからな。


「そうですか? 分かり易いと母には言われるのですが」

「うわっ」


 気が付くと全力で走る僕の横を無表情君が同じ速度で走っていた。


「いつのまに?」

「最初からですが」

「ぼ、僕を逃がしたのか?」

「いえ、適当なところで殺せと言われています」


 台無しだ。

 逃がしてくれたのかと思ったのに。


「陛下の速度があまりにも遅いので少し待ってから追いかけたのに、すぐ追いつきましたよ」


 仕方無いだろう。

 軟禁されていて、足腰をほとんど鍛えていないんだから。


「でも陛下。不思議なことに少しずつ走るのが速くなっていませんか?」

「知らん」


 とりあえず殺される前に逃げないと。


「あ、心配しないでください。陛下のことは殺しませんよ」

「へ?」

「一緒にエルフのところに行きましょう。そして彼らの真実を見てください」

「それでどうするんだ」

「その上で決めて下さい。エルフを滅ぼすのか、奴隷にするのか、それとも……」


 無表情君はそれっきり黙ってしまった。

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