表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/9

4.

 知っている天井だな。


 議案に署名させられた後、寝室に戻され夜中に殺されちゃうんじゃないかとヒヤヒヤしながら熟睡。ミリアムになって10年も経てば、明日が来ない可能性なんて日常の話ですっかり耐性が出来上がっているので、超余裕だ。


 という事で目覚めた。

 ステータスのせいか朝がダルいということが無いのは助かる。


「準備は……」


 昨日の話では出陣のはずだけど。


「陛下、朝ですよ! お、起きてましたか」


 機嫌が良さそうにリヴィエールが入っていた。

 宰相なのに暇なのか?

 そういえば記憶を遡っても、セバスチャン的な存在はいないな。

 給仕と掃除をしてくれるメイドが一人いるだけだ。これも数ヶ月おきに変わるので、名前すら知らん。


「ノックくらいはして欲しいんですが」

「嫌がらせです」

「そうですか」

「退位しますか?」

「……」


 また、このやりとりだ。

 どうして合法的な退位に拘るんだろうな。さっさと僕を廃嫡すればよかったのに。


「さて、出陣です。城の外へ出るのは初めてですな」

「そうですね」

「10歳になった陛下の最後の旅行のようなものです。楽しんできてください」

「僕は殺されるの?」

「何の話でしょう」


 リヴィエールがニヤニヤと笑う。


「だって今……」

「陛下の親征です。戦場では何があるか解りませんから……気をつけてくださいね」


 戦場のドサクサで殺す気か。


「陛下はエルフを隷属させるという鬼のような政策を我々に残し、我々は陛下の御遺志を継いで粛々とミリアム王国を運営していきます」

「私は……の間違いではないのですか?」

「ふぉふぉ、陛下もご冗談を。私は陛下の忠実な臣ですよ」


 そういってリヴィエールは、もう一度大きな笑い声を上げながら寝室を出て行った。



「陛下、こちらです」


 そういって案内してくれたのは、表情の乏しい長身の兵士だった。


「ありがとう」

「いえ……仕事ですから」


 愛想もない。

 僕は、この国の王のはずなんだけどな。

 なぜこんなに蔑ろにされているのだろう。

 誰も教えてくれないし、情報を集める手段も無い。困った物だ。このままでは殺されてしまう。


「あなたは僕の護衛?」

「……馬鹿にしているのか?」

「え?」

「俺……私に陛下の護衛をしろと言うのですか。この私に」

「い、いえ。あ、ごめんなさい」


 無表情から一転、殺意を剥き出しにした表情に戸惑う。

 何か気に障る事を言ったかな。とりあえず、ここは謝罪の一択だ。


「……こちらです」


 騎士は僕の様子に大きく息を吐くと、再び無表情に戻った。



 昨日、バルコニーの上から見た広場に案内された。

 そこには無数の兵士達が整列している。

 その前で偉そうな軍人っぽい人が演説をしていた。将軍かな。


「こたびは陛下の親征である。陛下は先王陛下と同じように亜人との共存をお望みだ」


 ギロリ。

 そう音が聞こえてくるような勢いで兵士全員の視線が僕に向けられる。

 その目には明らかな憎しみが……


「だが! 先王陛下とは違い、出陣して北方地域を制圧の後、エルフを隷属させることをお望みだ」

「「「おおおお!」」」


 その一言で兵士達の目から憎しみではなく……狂気の色が浮かんだ。


「やつらを奴隷に……」

「散々痛めつけて」

「合法的に殺す。次々と殺す」


 明らかにおかしな声が風にのって聞こえてくる。


「さぁ、陛下。皆のために一言をお願いします」


 将軍がそう言って僕の腕を強引にとり、引きずるように皆の前に連れ出した。

 王です。王様なんですよ。僕は。


「さぁ、兵が待っています。陛下のお言葉を」


 そう言う将軍の言葉には侮蔑の色が浮かんでいる。

 だから王様なんだってば。


「ああ、うん。皆、怪我のないように」

「……」


 兵は無反応だ。

 無理です。

 この状況、なんの地獄。


「陛下のありがたいお言葉だ。感謝しよう。我々は怪我一つなく、圧倒的な兵力にて今度こそあのにっくきエルフどもを蹂躙し、奴隷として連れ帰る。以上だ。出陣せよ!」


 将軍のよくわからないフォローで再び広場に活気が戻り、僕は出陣することになった。



「ねぇ、これ何とかなりません?」


 僕は馬車に連結された移動式玉座に座らされている。まるで見世物のようだ。


「陛下の安全のためです」


 無表情君は結局、僕に付き従っている。やはり護衛らしい。言うと怒るので言わないけど。


「でも、この周りの柵……? どちらかと言えば檻ですよね」

「陛下の安全のためです」


 また同じ答えが返ってきた。

 僕の周囲は柵……といえば聞こえがいいが完全に脱出不能の格子に囲まれ、まるで囚人のような状態で移動させられていたのだ。

 トイレにいきたいといえば、オマルが差し出された。その際は格子のまわりに布が掛けられるので周囲の目は気にならなかったし、ステータスのせいでお通じも快適で変な音が漏れないのは助かったのだが。


「でも、自分の国だよね。誰が襲ってくるの?」

「兵です」


 ああ、味方が襲ってくるのね。そんな気がしてたよ。


「あなたは襲ってこないの?」


 思い切って無表情君に聞いてみる。


「美味しい物は最後に食べる主義でして」

「ああ、そうですか」


 怖いよ!

 やっぱりこれって囚人扱いだよね。ねぇ?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ