後日譚:それから
学園祭が終わってからいくつかの季節が巡った。その間変わったこともあったし、変わらないこともあった。
変わったことはユウキの先輩たちが高校を卒業したこと。
幸いそれぞれが満足した進路を選ぶことができたようだ。麗は附属大学である慶立大学文学部へ進学、脚本を本格的に勉強しつつ演劇サークルで監督として入学早々その手腕を振るっているらしい。小宮山は「誰かを助けられるようなことがしたい」と言って、国立の医学部へと進んだ。医者となるべく日々勉強し、アルバイトで貯めたお金で海外へボラティアを計画しているとのこと。
そして、絵美は演劇を辞めた。
今まで演劇一筋で生きてきたが、果たしてそれが本当に自分のとるべき道なのだろうかと疑問に感じたらしい。現在は小宮山と同じ大学で色々なことに挑戦している。「毎日が新鮮でとても楽しい!」と前回会った時、ユウキに嬉々と語っていた。さしあたっての目標は、絵美もお金を貯めて小宮山のボランティア活動を手伝うことだと豪語していた。
ユウキも演劇部の部長として、前年と同じように全国大会の制覇を目指して日々研鑽を重ねている。最近は次の部長候補であるおりえの育成にも力を入れている。正一の方は引き続き部長として後輩たちを時に厳しく時に優しく指導している。前回の雪辱を晴らすべく、こちらも毎日厳しくも充実した練習を行っていた。
皆、前を向いて一つ、また一つと歩みを進めていた。その足取りに迷いはなかった。
これからも毎日、少しずつ何かが変わっていくだろう。
きっとそれは素敵なことに違いない。誰もがそう予感していた。
ただ一方で変わらないこともあった。
それは繋がれた手が結ばれ続けていること。
五月に入って二週間が経とうとしていたが、一面に咲き誇る桜はまだその盛りを見せていた。そんな中を、ユウキと正一は手を繋いで歩いていた。心地よい春風が二人を撫でる。それは春の薫りを運んでいた。夏はまだもう少しだけ先のことかもしれない。
ユウキはもう王子様ではない。
学園祭の後夜祭の出来事からユウキは本物の自分を掴むことを決心したからだ。王子様ではない自分、それはユウキにとって未知以外の何物でもなかった。足が竦みそうになるくらい怖かった。それでも一歩進むことができたのは隣にいる正一のおかげ。彼はいつもそばで支えてくれた。その逞しさで、その温かさで。
だから私はこれからも『ぼく』ではなく『私』として生きていける。
『進藤ユウキ』はもういない。
「桜が綺麗ね」
「そうだな」
「けれど、それももうすぐ散ってしまうと思うとなんだか寂しいわね」
「そうでもないさ。春が終わっても夏がある。夏が終わっても秋。次は冬。そして気がついたらもう春だ。あっという間だろ?」
「ふふ、そうね」
ユウキは愛らしい笑顔を浮かべて言った。昔、王子様であった『彼』には決して許されない表情であった。実に自然で魅力的な笑みだった。
しばらく歩くと、正一はふと立ち止まってユウキの方を向いて言った。
「優姫」
穏やかな声だった。彼女の好きな優しい声だ。
「何かしら正一くん?」
優姫は期待に満ちた眼差しを彼に向けた。
「これから一緒に桜を見続けよう。来年も再来年も、何度でも」
「はいっ!」
彼女の笑顔は満開だった。
それはまるで綺麗に咲き誇る彼女たちのこれからを示しているようであった。
進藤優姫の日常と青春はここから始まる。
そう、これは優姫と正一の物語だ。
彼女は、あの頃と比べてずいぶん長くなった髪をなびかせ、スカートを翻し、新たな日常へと踏み出した。
最終話まで読んでいただき本当にありがとうございました!
もしよろしければ、レビュー・評価・感想などをいただけましたら嬉しいです!!
改めて読了ありがとうございました!!




