第6話 弱虫の覚悟
ルシア何も言わず立ち上がり大人しくついて行った
男達の前を歩くよう指示され後頭部には銃を突きつけられて
再び車両内には静寂が戻った
アルディアは膝を抱え不安にかられていた
一人になってしまった恐怖とどうしていいか分からない不安が頭の中をぐちゃぐちゃにかき乱した
ふと顔を上げルシアが座っていた席の足元を見る
先程まで会話に使っていた手帳が落ちていた
ルシアが故意に置いたのか、偶然かは定かではなかったが手を伸ばし手帳を手に取った
会話していたページ以外ほぼ真っ白だった
ルシアの性格なら日記でもつけてそうなのに
パラパラとめくっているとあるページを見つけた
【5月4日 曇り
いつも使っている日記帳が無くなった。
見つかるまでの分はここに書く
今日は雲が多く雨が降りそうな1日だった
特にこれといったものはなく何も用事はなくかなり暇な時間を過ごした
アルが村を出て3日が経った
いきなり荷物をまとめて何も言わずに出ていった
また何か変な依頼でも受けたのだろうか
今回は長いのかまだ帰ってくる気配がない
別に心配とかではないが気がかりなだけだ、
幼馴染として
まぁ無事に帰って来ることを祈る】
俺が幻獣を討伐しに村を出た3日後の日記が書かれていた
日記ならもっと柔らかい感じで書くものなのに口調は固く性格が出るなと少し思った
次のページからつらつらと1日ごとに日記が書かれていた
1日もかけることはなく真面目な性格だということが一目瞭然だった
毎日毎日飽きずに書いて、最後の2、3行はいつもアルディアに対する心配やそんなふうなことが書かれていた
確かに相手の方が2つほど年上だがここまで心配されているとまだ子供扱いをされてるようでむず痒い感覚だった
そして次のページをめくった
【5月27日 雨のち晴れ
アルが村に帰ってきた
服は泥まみれで最初に見つけた時は目を疑った
声をかけるまもなくアルは村長の元へ行ってしまった
大人達は騒ぎ出し、アルを探し、人に聞くと村長とアルは王様がいる街に出ていったらしい
何か大事になっていることは確かだった
するとある大人がぽつりと呟いた
アルが東を占領していた幻獣を倒したと
初めは信じられなかった
その後、日が沈み始めたぐらいで村長とアルは帰ってきた
噂はもう村中に広がり、村長は堂々と公言した
アルは勇者と呼ばれ、皆アルを讃えた】
「これって…」
俺が帰ってきた時の日記だった
確かあの日は引っ張りだこでルシアとまともに話していない記憶がある
日記は次のページまで続き、相手が気持ちを書き留めているものを読むのは抵抗があったがやめれるわけなくページをめくった
【アルは嬉しそうな顔をしていた
今まで一緒に遊んだりしても見たことないような嬉しそうな顔だった
当たり前だろうな
非魔法使いのアルは子供の頃から大人からも見てもらえていないことの方が多かった
今自分の成し得た偉業を讃えられ
見てもらえることが出来て嬉しいんだろうな
なのに私はそんなアルを見て汚い感情がわいた
怖い
アルはいつかその偉業を糧にしてもっと先へ進んで、この村のことも、私達のことも忘れてしまうんじゃないか
私はもういらないのだろうか
幼馴染というだけでそばにいて、一緒の村で過ごしていたって、アルは先へ進む
いつか私を突き放したらどうしよう
一人になるのは嫌だ
全部全部わがままでアルの足枷になる汚い感情だった
自分が嫌いになる
昨日はもう寝よう、また明日になればこんな気持ちも忘れられるだろう】
言葉を失った
昔から強気で弱いとこなど絶対に見せない人だった
口にもしないし態度にも出さない
同じ村に生まれて、いつも一緒に遊んでくれたのはルシアだった
魔法が使えない自分を誰も必要とはしない
でもルシアは話をしてくれた、遊んでくれた
長く一緒にいても1つも口に出さない言葉が書き連ねてあった
自分はいつもルシアの後に隠れていた自分がもっと惨めに感じた
唇を強く噛む
手帳を強く握ってしまい端がくしゃっとなってしまった
「凄い集中力だねぇ、何書いてあるのー?」
顔を上げると前の席に人が座っていた
今の今まで気が付かなかった
ニコニコと笑う男が手をひらりとふった
「え…ぅわっ」
「しっ!」
思わず大声が出そうになると相手が手で口を抑えた
監視役の方を二人でそーっと見る
銃を構えたままあぐらをかき眠そうにしていた
二人でほっと胸をなでおろした
「んでんで、何読んでたの?」
小声で喋る相手だが静かな車両内には響く
人差し指を立て、しーっというジェスチャーをし手帳の白紙のページに書く
【別に何も、てかあんた誰】
相手に押し付ける
相手はそれをじっと見てはにやりと笑う
そしてペンを持ちさらさらと書く
【僕はただの旅人だよ】
旅人と名乗るその男はニコニコと笑いながら書いた手帳を見せる
そしてまた何か書き始めた
【お連れさん、連れてかれちゃったね。お気の毒に】
同情の言葉だった
何も言葉を返せずそっぽを向くしかなかった
相手はまだ何か言いたいのか書き始めた
【君はどうするの?勇者さん】
相手が自分を勇者だと書いた
それに驚き相手を見る
相手はニコニコも笑いながら首を傾げるだけだった
この旅にルシアを巻き込んだのは自分だ
そしてこんな惨事にも巻き込んでしまった
村にいておけばこんなことは絶対に起きなかったのに
でもこんな中でも、心はきたなく汚れていた
ルシアがいなくなれば護ってもらう人がいなくなるという甘えだった
まだ護ってもらうつもりでいるのか
まだルシアの後に隠れ続けるつもりなのか
自分が惨めで情けなくて仕方がなかった
旅人が俯き何としなくなったアルディアを心配したのかとんとんと肩を叩く
【大丈夫?】
その一言にゆっくりと首を縦に振った
勇者と呼ばれ讃えられていた日々に、護ってくれるルシアに甘えていた
見返せたことが何よりも嬉しかった
でもその反面、ルシアは不安を抱えていた
口にも出さず態度にも出さない不安
弱虫でも、 理解者にはなれる
初めて相手のことを分かってやりたいとおもった
相手から手帳を貰い空いている部分に書いた
【助けに行く】
相手はそれを見て驚いたような表情を浮かべた
首をかしげ、無理だと言うように首を横に振った
【それでもやる、あいつは仲間なんだ】
相手の顔の前に突き出すと諦めるように笑った
【それじゃあどうするのかな、相手は銃を持ってるけど僕達はなーんにも持ってない】
そう書かれると何も答えれなかった
助けるのはいいが作戦なんて全く考えてなかったからだ
手に持っているのは短剣と荷物のみ
銃に対抗できそうなものはこれと言ってなかった
何か手はないか必死に考えるも勝算がありそうなものは思い浮かばなかった
考えていると相手が肩をトントンと叩いた
【僕こんなもの持ち合わせてるんだけど使えるかな】
と相手が書きアルディアを見せる
その道具を見て思いついたように表情を明るくさせた
いける…これならきっと
アルディアは手帳に考えを書き相手はそれを見て頷いた
作戦決行だ